かなり有能な女性が結婚・子育てのあとパートとしていろいろな仕事をこなしてしまうと、正規雇用者は高い賃金給与に見合った仕事ができているのかということになるからです。

こうした女性の就業環境の劣悪さと円安・インフレ政策が相まって、日本では労賃一般が低めに収斂していき、労働生産性上昇によるGDPの増加分が丸ごと資本の利益としてかすめ取られてしまうようになっていきました。

その損失は想像以上に大きいかもしれません。

たとえば、おそらくシンガポールで自分のキャリアを追求しながら今はマレーシアに住んで子育てもしていらっしゃる女性が、何かにつけて「シンガポールはすばらしくて、日本はダメだ」という趣旨のXへの投稿をひんぱんにするのを見て、ああこの人も日本特有の自国をけなす知識人だな」と思いました。

そしてコロナが流行していた時期には「ワクチンを3回以上打たなければ航空機に乗れないのはもちろん、公共交通機関、医療機関が使えないだけでなくスーパーマーケットにも入れない」状況だったと書いているのを見て、こんなに聡明なひとがなぜシンガポールのような専制国家を誉めそやすのだろうと不思議でしょうがありませんでした。

でもこういう人でも、結婚か出産を機に自分のキャリアを断念してあとは仕事をしたければパートの働き口を探すしかないという状況に追い込まれたことがあったとしたら、日本はまったくダメな国だと感じたとしても無理はないと思います。

最後にまとめておきましょう。

日本は基本的に健全な国だと思います。経済政策としては円安・インフレ政策をやめ、低いインフレ率とぎりぎり実質金利がプラスになる程度の名目金利に自然体で向かっていけば、円は現状の2倍程度になりますが、技術優位を確立した輸出主導型の企業はやっていけますし、庶民の暮らしははるかに豊かになります。

さらに、社会労働政策としてはキャリアを追求したい女性には、かなり長い産児休暇のあとも元どおりの条件での復職ができることを保証すること。これはますます若年層労働力が不足していく中で貴重な労働力の源泉となるし、仕事を続けるために出産を先延ばしにする女性を減らすことによって出生率の向上にもつながるでしょう。