将来に向けた課題とマツダが考えるアクション
別府氏が今、課題として挙げるのは『自動車産業におけるプロジェクトは規模が大きく長期にわたるものが多く、そうした環境の中では個人のスキルが細分化やサイロ化されてしまい、また、昨今はホワイト企業でも若手社員の退職が多くなってきていることもあって、企業で働く人にとっての魅力をどう作っていくか? や若手の社員にどういった経験をさせるか? を真剣に考えていく必要があります。』と話されていて、これらは自動車産業が垂直統合の事業展開によって合理化と原価低減を図ってきた経緯から部分最適化が進み、少しでもその体系から逸脱すると手法、事業形態として機能しないということを示していると感じます。
さらに別府氏は『他業界の方と話をしていると、入社3~4年目で店長に任命されて、自らの責任のもと仕入れはもちろん何から何までも任されるというような話しも聞きますが、一方で製造業のプロジェクトは大規模で長期間のためリーダーを経験する年齢がどうしても高くなってしまい、自身も“MAZDA3”の開発責任者を経験したのが40歳頃でしたが、それでも社内では早い早いと言われていたのが現状であるため、できるだけ20代後半から30代前半ぐらいの若い時代にヒリヒリした経験が出来るプロジェクト、オーナーシップを感じられる機会を創出していくことも我々の使命だと捉え、小規模でもリーダーの経験を積み、失敗しながら成長していくという経験ができる環境が必要です。』とのことです。
やはり、自動車産業におけるプロジェクトの規模が結果的に年功序列と相性が良く、個人のスキルやマインドセットに影響もしていると感じられる中で、マツダは小さいプロジェクトからでも、年齢を問わず早期にリーダーを担える体制を検討しているようです。
既に次世代事業を実現しているのでは? と思える“MAZDA VR EXPERIENCE”の完成度と今後の可能性
「マツダイノベーションスペース東京」にはIT系のチームも在籍していて、2023年のジャパンモビリティショーで好評であった(会場では人気過ぎて近づくこともままならなかった)、“MAZDA VR EXPERIENCE”というARシミュレーションによる体験機の実物が置いてあり、特別に体験させてもらったところ、そのリアルで臨場感たっぷりの内容に驚き感動しました。
具体的には、体験するために専用のRECARO社製ドライバーズシートに座って専用スコープ(目と耳を覆う)を取り付けると、目線の動きに合わせて外の景色はもちろん、インパネや助手席、後方とまるで実際にクルマに乗っているかのように周囲を見渡すことができ、その後、基地のようで近未来的にも思える車庫から走り出すと、一般道の走行へと続き、さらに遊園地のアトラクションのように空中も走るといったシチュエーションがあって実際に浮いているように感じるのですが、それらは視覚からくる人間の錯覚だそうで視覚効果がどういったものであるかを体験する機会にもなりました。
そして、何と言っても驚いたのが、これら全てをゲーム業界の企業に依頼せずにマツダのITチーム数名のメンバーが内製で完成させていることです。
市販のゲームとして、販売店の体験機として、例えば、往年のマツダの名車、或いは最新の現行車で楽しくドライブを体験できる設定にでもすれば、すぐにでもビジネス化できるのでは? と思えるほどの魅力と完成度でした。
「マツダイノベーションスペース東京」には、このようにIT系のエキスパートエンジニアも在籍していて、今後はこういった分野の人材も多く入社されたり或いはパートナーとして連携されたりといった機会が増えると思われます。
ジャパンモビリティショーにおける“MAZDA VR EXPERIENCE”の実績からも既に次世代事業のひとつを担うと考えられますので、それらに興味や関心を持つ方々が知れば、自然とメンバーやパートナーが続々と集っていくであろうと感じました。