ハシナ前首相のアワミ連盟は、インドと良好な関係を持っていた。歴史的に言っても、野党バングラデシュ民族主義党(BNP)と比して、インド寄りである。これはBNPが、少なくともかつてはパキスタン寄りの性格を帯びていたことを含意する。冷戦時代に、アメリカはBNP政権時代にバングラデシュと良好な関係を持つ傾向を持っていた。インドがソ連に近かった。そのためアメリカはパキスタンに接近しがちであったことが関係している。

ただそれも主に冷戦時代の話だ。この冷戦時代の構図でアメリカの政策を理解したかのように語ったら、今回の政変前であれば、軽率な発言のそしりを受けることになっただろう。

ただし、バイデン政権成立後に任命されたアメリカのバングラデシュ大使のピーター・ハース氏が、ハシミ政権と険悪な関係にあったことも事実である。ハシミ政権が人権侵害をしているとハース大使が批判し、ハシミ政権がそれを内政干渉として退ける、というのが、基本構図であった。

ただしハース大使が人権侵害を述べるとき、野党関係者に対する政治活動の妨害が参照されていたことには注意が必要であるかもしれない。今年1月の総選挙を野党BNPはボイコットしていた。アメリカは、その責めはハシミ政権にある、とみなして、批判的態度をとっていた。

加えて、アメリカの駐インド大使であるEric Garcetti氏が、インドのモディ政権がロシアとの関係を清算しないことに苛立っており、特に7月のモディ首相のロシア訪問の後、「アメリカとインドの良好な関係を当然視すべきではない」と発言したことが、背景要因ではないかされて、拡散している。

Garcetti氏はロサンゼルス市長から転身した民主党の政治家である。バイデン政権発足直後に指名を受けていたが、上院での承認が滞り、ようやく23年5月になって大使に就任した人物だ。

こうした政治家層が大使になると、スタンドプレーに走って、当該国政府との関係悪化を招く場合は少なくない。インド政府は、バングラデシュ情勢の悪化を懸念をもって見ている。それが今後のアメリカとインドの関係悪化につながる恐れがある。