今回、呉座勇一さんと一緒に読み解くのは、やはり往年のベストセラー日本人論である、中根千枝『タテ社会の人間関係』。著書になったのは1967年ですが、原型となる論考は64年に出ています。

こちらもまた「タテ社会とは、①上下関係に厳しい封建的な組織で、②日本の近代化を阻害している」といった主張だと、読まずに思われがち。そしてやっぱり、どちらも違うんです。

上記の誤解をする人は、中根さんが「日本の身分制的なタテ社会と、欧米の平等な近代社会」を対比したと思ってるでしょ? これが間違いの元で、同書で日本と最も対照的だとされるヨコ社会の典型は、カースト制が残るインドなんですね。

京大の梅棹忠夫と並び、戦後の日本に文化人類学の魅力を広めた中根千枝(東大)がいう「タテ・ヨコ」は、平等性とは関係がなく、共同体意識が伸びてゆく方向を指しています。同じ場所に集えば子々孫々まで仲間(タテ)なのか、共通の資格を持てば世界のどこでも仲間(ヨコ)なのか。

……なので正しく理解すると、日本史を描く上でも使えるんですね。①そもそも日本はいつから「ヨコよりタテ」の共同性に全振りした社会になり、②なぜそれがある時代には高いパフォーマンスを示し、別の時代にはドン底まで行ってしまったのかを、考える手がかりになる。

2011年に『中国化する日本』にまとめる際には、全体の文脈のために見えにくくなりましたが、09年に発表した原型の論文(こちらからDLできます)では、私もはっきりこう書いておりました。