抗がん剤や放射線治療との併用で「がん細胞に“とどめを刺す”」
「免疫チェックポイント阻害薬」によって、がん細胞はどのように影響を受け、具体的にどのような効果が現れているのでしょうか。実際の治療現場における事例について、近畿大学医学部 内科学腫瘍内科部門 主任教授の林 秀敏さんが解説します。
例として挙げられたのは、肺がんが肝臓に転移した患者のケース。
2週間に1回ペースで「免疫チェックポイント阻害薬」を点滴したところ、いったん腫瘍が大きくなる傾向が見られたものの、がんの進行とともに増加する生体物質「腫瘍マーカー」の値が劇的に低下。その1ヶ月半後には、腫瘍が大幅に縮小したといいます。
「がん細胞を抜き取って検査する『生検』を行ったところ、免疫をつかさどるリンパ球が大量に集結し、がん細胞を食べている様子が観測できた」と林さん。
当初見られた腫瘍の拡大も、このリンパ球の増加に伴うものであったことがわかり、「『チェックポイント阻害薬』が患者さんの免疫を利用して、がんをやっつけているのだと実感した」といいます。
「私が研修医だった20年前は、進行期にあたるステージ4の肺がん患者さんが1年以上生きる可能性は高くありませんでした。しかし今は『チェックポイント阻害薬』の登場によって、1年どころか2年、3年、5年と生きておられる方がいくらでもいらっしゃる。これは臨床医から見ても大きな変化です」
「免疫チェックポイント阻害薬」には抗がん剤や放射線治療と併用する方法もあり、実際にさまざまな患者さんに使われているといいます。
「ステージ4まで達していないがんの場合、放射線治療で腫瘍に対する免疫が活性化している状況で『免疫チェックポイント阻害薬』を使用すれば根治できる可能性もある」と林さん。複数の治療法と併用することにより、「がん細胞に対して“とどめを刺す”使い方もできる」と語りました。
ステージ4告知から“寛解”も 「免疫チェックポイント阻害薬」使用者が経験語る
「免疫チェックポイント阻害薬」を使用することで、ステージ4のがんと診断されながらも、長年にわたって日常生活を送り続けられているがん患者さんがいます。
セミナー後半は、自身もがんサバイバーであり、現在がん経験者へのインタビューなどを発信する「がんノート」代表理事を務める岸田徹さん司会のもと、2名のがん患者さんが自身の経験を語りました。
車椅子ダンサーとして活動する36歳の女性、林美穂さんは、0歳で小児がんの一種である神経芽腫を発症し、31歳で腎細胞がんと診断。ステージ4の告知を受けましたが、手術や抗がん剤と並行して「免疫チェックポイント阻害薬」による治療を3年続けており、告知から5年が経過した現在も精力的に活動しています。
「担当医師からは『5年、10年前だったら、もう助からないレベル』という言葉を聞きましたが、この新たな薬が加わったことで『まだ助かる道があるかもしれない』と希望を持てたことは大きなインパクトでした。使用から数か月で、起き上がるのも辛かったほどの痛みもなくなり、周りからは『本当に闘病中なの?』と驚かれるほど元気になりました」
社会保険労務士として働く47歳の男性、清水公一さんは、35歳で肺がんのステージ4と診断されるも、手術、放射線治療、抗がん剤と並行して「免疫チェックポイント阻害薬」による治療を受けたことで、がんが寛解。告知から12年経つ現在も健康な生活を続けています。
「『かなり厳しい状態です。時間を大事にしてください』と医師から告げられ、当時は新薬であった『免疫チェックポイント阻害薬』を使うことにしました。副作用として口内炎や皮膚の発疹などが出た時期もありましたが、自分の場合は我慢できる程度で済みました。使用から2ヶ月で腫瘍がかなり小さくなり、半年後に寛解することができました」
2人の話を受け、「常識が変わっていくところを目の当たりにしている」岸田さん。
「原発不明がんなど、明確な治療法がない状態で絶望の中にあった患者さんたちにとって、『免疫チェックポイント阻害薬』は大きな光になっているところもあると思う」といい、「日本から世界を変えていけるような形になっていったら」と期待を述べました。
セミナーの最後には、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社 代表取締役社長のスティーブ・スギノさんが挨拶。
「小野薬品工業と当社とのパートナーシップにより生まれた『がん免疫療法』で、がん治療ありかたに革命を起こすことができた」とし、「数えきれない患者さんの生存率延長に繋がる治療の選択肢を提供できることを誇りに思っています」と締めくくりました。
取材協力:小野薬品工業株式会社・ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社
(取材:天谷窓大)
提供元・おたくま経済新聞
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