なお、地球上のCO2は毎年200 Gt-C/年以上も出入りしているのに、大気残留量がまるで計ったように3〜4 Gt-C/年に収まっている理由は、まだ解明されていない。大気にも海洋にも、我々の理解が及んでいない領域は、まだたくさん残っているわけだ。

この大気残留CO2量3.2 Gt-C/年は、化石燃料由来CO2量6.4 Gt-C/年の半分に相当する量であるが、IPCC報告書では「人類の放出するCO2の約半分が大気中に蓄積する」と書いている。この違いは、実は大きい。話が全然違うのだ。

IPCC報告書の主張を言い換えると、人為的CO2の半分が、他の大部分の自然由来CO2を全部押しのけて、選択的に大気に残留すると言っているに等しい。完全混合する気体で、そんなことが実際に起きると、本気で考えたのだろうか?そもそもこんな内容が、200人以上の科学者の手による報告書に書かれるとは驚きだ。そして、誰も異議を唱えない(異議を唱えたのは、2021年の私の上記論文で)。

私の考えでは、大気中に放出されたCO2は、その起源(天然・人工)で区別されることなく平等に吸収されるはずなので、大気に残る人為的CO2量の比率は、大気へ放出される時の比率と同じはずである。つまり放出時の比率8/218.2=3.6%程度しか含まれないので、3.2×0.036=0.11 Gt-C/年しか残留しない。濃度で言えば、毎年2ppm増えるうちの0.07ppm程度である。この中の何%かが変化しても全体濃度に影響しないのは当たり前である。

なお、IPCCの記述は単なる書き間違いではない。彼らは、自然界のCO2収支は平衡状態にある(つまり出入りゼロだ)から、大気中CO2で増えた分(約2ppm=年間4〜5 Gt-C)は人間由来だと主張しているからだ。

しかし、もし自然界のCO2収支は平衡状態にあるとの仮定が正しいなら、人間活動の影響がなければ大気中CO2濃度は一定のはずだが、海底堆積物の分析により過去150万年間の大気中CO2濃度の変動を復元した研究を見ても、その値は常に変動しており、一定値が継続した期間などは観察されない。つまりこの仮定は成り立たない。またこの研究では、100万年より前の温暖だった時代でCO2濃度は決して高くはなかったことも指摘されている。つまりここでも、CO2が多ければ温暖化、と言う説は否定されている。

気温・CO2・海面温度の相互関係