海水温の変動には北太平洋の太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation:PDO)や北大西洋における大西洋数十年規模振動(Atlantic Meridional Overturning Circulation:AMOC)などの周期的温度変化が知られており、地球平均気温の長期的な変動と関連が深いことは広く知られている。なお、エルニーニョ・ラニーニャ現象もPDOの一環と見なされている。

また海流の動きも立体的に複雑であり、例えば黒潮の「大蛇行」について、何も解明されていない。長い年月をかけて海の深層で流れる動きも存在すると言うし、海の複雑なシステムには、まだまだ人知の及ばない領域が広大に拡がっているように思われる。

大気中のCO2動態とその誤解

次に、上記報告の第5項が重要である。実は、この内容はIPCC報告書にも地球全体での炭素循環量として記載されている。私が2021年4月に発表した論文でも引用しているが、大気へのCO2放出量=218.2 Gt-C/年、大気から海・陸へのCO2吸収量=215.0 Gt-C/年、差し引き3.2 Gt-C/年が大気に残留し、これが毎年約2ppmずつ上昇する濃度と計算が合う。なおGt-C/年とは、炭素換算ギガ(=109)トン/年の意味である。

片や、人類の放出するCO2総量は、8〜9 Gt-C/年であり、このうち化石燃料由来は6.4 Gt-C/年とされる。つまりこれは全CO2放出量の2.9%に過ぎない。以上が上記第5項で述べられている具体的な内容である。

全CO2放出量の2.9%に過ぎない化石燃料起源CO2が、2020~2021年のCOVID関連の減少によって多少変動したとしても、大気中のCO2への影響が微々たるものであることは当然である。実際、大気中CO2濃度変化を見ると、観測開始以来50年以上もの間ずっと、ほぼ一定速度で上昇しており、年間変動はほとんど観察されていない(無論、微細な変動はある)。