比較画像から分かるとおり、大きな触手と小さな触手が交互に生えているところや、先端が白くなり、そこから少し離れた部位で色が濃くなっているところなど、様々な点で非常によく似ているのです。

ケショウシリスのこのような形質は近縁種では見られておらず、そのことは、このケショウシリスが「ウミウシに擬態するゴカイ」として世界で初めて発見されたことを示しています。

では、ケショウシリスは、どうしてウミウシに擬態しているのでしょうか。

毒を持つウミウシに擬態して魚たちから嫌われようとする「ケショウシリス」

擬態とは、生物が自分以外の環境や生物に形、色、におい、動き、音などを似せることで、生存していく上で利益を得る現象です。

これまで多くの昆虫で擬態の研究が行われてきましたが、海洋生物、特にゴカイの仲間においてはほとんど研究が進んでいません。

だからこそ、新しく発見された「ウミウシに擬態するゴカイ」は、注目に値します。

A–D, ケショウシリス. E, 周辺に生息するウミウシ。
A–D, ケショウシリス. E, 周辺に生息するウミウシ。 / Credit:自見 直人(名古屋大学)_ウミウシ?いいえ、ゴカイです ~ウミウシに擬態する新属新種のゴカイを世界で初めて発見~(2024)

擬態には大きく分けて2つの種類があります。

周囲の葉っぱや木に自分を似せることで捕食者を惑わすものを環境擬態(crypsis)と呼び、毒を持つ生物特有の特徴を真似ることを標識擬態(Signal mimicry)と呼びます。

今回のケショウシリスの触手の先端には毒が存在せず、まさに「見た目だけ」ウミウシを真似ています。

そのため研究チームは、ケショウシリスが「毒のあるウミウシに擬態することで、自身も毒があるように外敵に錯覚させている」標識的擬態をしていると考えています。

ただ、この標識的擬態にはさらに2つの種類が存在しています。

それがベイツ型擬態(Batesian mimicry)とミューラー型擬態(Müllerian mimicry)です。