唐突だが映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の話をさせていただきたい。
1955年の街に迷い込んだ主人公が、史実より3年前倒しで「ジョニー・B・グッド」を地元高校のダンスパーティで熱演し、参加者全員を熱狂させるシーンがある。
R&Rの歴史を知っているひとには感涙の名シーンだ。白人の音楽を黒人ミュージシャンが独自に消化して生まれた曲を、今度は白人ミュージシャンが消化して新たな音楽を生み出し、それを黒人ミュージシャンが取り入れて、白人/黒人の境を軽やかに跳び越えていく新ジャンル・R&R(ロックンロール)が生まれていく歴史が、このダンスパーティのシーンには濃縮されている。
ちなみに劇中で奏でられる「ジョニー・B・グッド」(♪”ゴーゴー、大谷ゴー” のあの歌!)は、「3」のリズムが軽快に駆け抜けながら、「4」の大枠はしっかり保たれる。
黒人ミュージシャンたちが白人優位社会のなかを陽気に駆け抜けていく様を、そのまま音楽に置きかえたような曲だ。
R&Rの一大到達点「ジョニー」と、日本の無名バンドの若きキーボード奏者・サカモトが作った「ビハインド」に、「4」と「3」の協和という同一コンセプトがあるのは興味深い。
いやそれどころか、更にもうひとつ、「長調と短調のかく乱」という共通遺伝子が聞き取れるのだ。
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「ビハインド」で使われている音を、音列にしてみよう。
いったい長調(メジャー)なのか短調(マイナー)なのか、どちらとも取れてしまう、不思議な音階に思えるだろう。
だが実は、以下のごくありふれた七音階がもとになっている。
聞いてわかるように、これは短音階(いわゆるマイナー調)である。
しかし、左から三つ目の音を、半音上げ(♯に注目!)てみると…
音列の前半について、ぐっと陽気(メジャー)な感じになるのがわかるだろう。
七つ目の音も、半音上げ(♯)てみると…
音列の前半は陽気(メジャー)、中盤で陰気(マイナー)に、終わりで再び陽気(メジャー)になる。
さらに六つ目の音を、半音上げ(♮)てみると…
完全に長調(メジャー)である。
ここで「ビハインド」で使われている音を、確認しておこう。
短調(マイナー)とも長調(メジャー)ともつかない音階だ。
「ビハインド」を作っていた頃の彼は、日本のある優れたベーシストとの交友もあって(「ジョニー・B・グッド」を分析していたとはおよそ考えにくいが)エレキギターの奏法を鍵盤楽器で再現するのに凝っていた。
エレキギターといえばロック、そしてロックには定石的な和声進行があって、「ビハインド」はそのうちの一つを使っている。
ギターが弾ける方ならわかるだろうが、ギターで「ド・ミ・ソ」や「ファ・ラ・ド」といった三音和音を弾くとき、中段の音を出すのがけっこう難しい。そのためとりわけエレキギターでは、曲の勢いにのせて、二音和音で済ませることがよくある。
いわゆる「五度のハーモニー」だ。このハーモニーにおいては、たとえば「ド・ソ」であればその真ん中に「ミ」を置いてもいいし…