TOCANAにも寄稿いただいていたサイエンスライター:久野友萬氏の新著『ヤバめの科学チートマニュアル』が2024年1月31日、新紀元社より発売された。まさに“ヤバい”内容が目白押しの一冊から、特別にTOCANA編集部イチオシのテーマを抜粋してお届けする。第4回目である今回のテーマは「幽霊の正体」だ。(TOCANA編集部)
幽霊の正体は枯れ尾花ではなく?
古今東西、幽霊にまつわる話は数限りない。あまりに数が多いので、幽霊がいるかいないかよりも、いるのだと考えた方がすっきりする。都心のタヌキみたいなもので、新宿のビル街にもタヌキはいるのだ。しかし実際に新宿でタヌキを見たという人は少ない。
条件が揃えば、幽霊は万人が見てしまうものなのだろう。ただその条件がまったくわからないから、ほとんどの人が幽霊を見ない。巣穴が見つかれば、ビル街でもタヌキを見ることは簡単だが、巣穴が見つからないからタヌキがどこにいるのかわからない。
イギリス・コベントリー大学のビク・タンディーは、医療機器メーカーの研究室で働いている時、奇妙な体験をした。ある日の夜、タンディーは寒いのになぜか汗が出て、憂鬱で、ひどく不快な気分に襲われた。そこでコーヒーを飲みに行って一息入れ、デスクに戻ってから再び仕事に取り掛かろうとした時のことだった。
「ゆっくりと左側に人影が現れた。それは視界の周辺にあり不明瞭だったが、彼が期待する通りに動いた。幽霊は灰色で、音も立てなかった」(2009年の論文「A Ghost in the Machine」より)
振り向くと幽霊は消え、彼はその時点でようやく自身が総毛立っているのに気づいたという。
その翌日、タンディーは研究室で趣味のフェンシングのサーベルを手入れしている時、ふと金属片が振動していることに気がついた。モノには、それぞれ共有する振動(共有振動数)が決まっている。耳には聞こえないが、研究室には金属片と共振する振動数の音が響いているのだとタンディーは気がついた。そして、新しく購入した洗浄機のファンが振動し、19Hzという耳には聞こえない低い音が出ていることを見つけ出した。まったく聞こえない低周波が、人間に影響を及ぼして自分の不快感や幽霊のような幻覚につながった?
そう考えたタンディーは、19Hz前後の低周波を聞いた人間は幽霊を見るという仮説を立てた。