機能しない社外取締役という制度

 現在、社外取締役の制度は、十分に機能しているといえるのか。数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏はいう。

「機能できるはずがありません。能力や時間の点と仕組みの点と双方に問題があります。能力の点については、限られた情報、しかも“取締役様”向けに綺麗に整えられた情報をもとに、常勤取締役と健全な議論が交わせることができる人はものすごく限られています。私は1社だけ非上場の会社で社外取締役をやっていますが、実働スタッフと直接ヒアリングを重ねたりして情報の非対称性、情報格差ができるだけ生じないようにして、常勤取締役と健全な議論ができています。時間的な事情もあり、そこまでやっている人は恐らく少ないでしょう。また仮にできたとしても、組織として良い結果へと導くための建設的な議論が常勤取締役と交わせるのかどうかという点もあります。『あれやこれは、本当に大丈夫なのでしょうか?』などそれっぽい表情をして曖昧な質問を投げかけることは誰でもできる簡単なことです。建設的な議論とはいえません。

 仕組みの面でいうと、自分がお金をもらっている会社に対して忖度ナシに発言できる人は稀有でしょう。高額な報酬をもらっていればいるほどです。私は会社からの役員報酬としてはもらわず、オーナー・出資者へのアドバイザーおよび業務代行の一環として位置付けているので、忖度なしに会社として良い方向に行くかどうかだけを考えて社長以下常勤取締役たちと話せています。厳しい意見を言えば、その内容が正しければオーナーから褒められますが、上場企業の“お飾り社外取締役”は会社から高額な報酬をもらっているので、地位継続が第一になり、厳しい意見なんて言えるはずがありません。

 私の知り合いにも上場企業の社外取締役になっている人は何人もいますが、全員共通して『美味しい立場』というトーンで話しています。働かなくてもよくて成果の評価も受けず、見栄えが良くてお金がもらえる最高の立場、という意味です。そうした社外取締役の周辺の知人友人でさえも、おかしな仕組みだと思っていても、そうした人たちもきっかけさえあればどこかの社外取締役になれそう・なりたい人が多いので、決して批判を口にはしません。当事者や候補者が皆そう言ったり思ったりしているような仕組みは、会社の生え抜きの人たちの意欲を削ぐでしょうし、ただの格差助長の仕組みに見えます。今回の話題になっている経営者の発言は、そうした本音が出ているといえるのではないでしょうか」