だがこのよく知られた逸話、実はただの伝説に過ぎないという。実際の裁判記録には血の沐浴の下りは一度も出てこないという。18世紀にエルジェーベトの伝説を取り上げた作家たちが取り上げた、地元の伝承や醜聞でしかないという。血の沐浴の噂は、犠牲者の血を浴びて全身血まみれになった彼女の姿がまるで血で沐浴したように見えたという証言に尾ひれがついたものなのだ。
貴族の娘に手を出し始めたのも、彼女の噂が領地に広まった結果、地元には娘を奉公に出す者がいなくなったからだという。実際、彼女の最後の犠牲者は遠くクロアチアの地から連れてこられた者たちだった。エルジェーベトは名門の家名や人脈、財産を餌に二流の没落貴族の娘を女中として差し出させていた。もっとも、噂を知っていた貴族たちには、百姓の娘に行儀作法を教え込み自らの娘と偽って送り込んでいた者もいたとされる。
エルジェーベトが貴族の娘を狙っていたのは確かなようだが、その血を浴びることで若さや美貌を求めたというのは単なる伝説のようだ。実際、彼女は魔女であるという疑いや魔術を使った罪では裁かれていない。彼女の財産や領地、債権を狙った親戚たちが悪魔崇拝の罪や魔女として裁かれるのを避けたという説もあるが、現代に残された多くの資料から浮かび上がるのは、エルジェーベトの「悪魔的衝動」である。彼女はただ、自らの残忍な欲望に従って女性たちを痛めつけ、殺し続けたのである。