バートリ・エルジェーベト(あるいはエリザベート・バートリー)の名を聞いたことがあるだろうか? 400年ほど前、今日のハンガリーやルーマニア周辺に君臨し、650人もの若い女性を拷問・殺害した、世界初の女性シリアルキラーと目される人物である。若さと美貌を保つため、処女の生き血を満たしたバスタブに身を浸したと語られる、まさに吸血鬼と呼ばれるにふさわしい大量殺人鬼であった。
■血の貴婦人
エルジェーベトは当時の神聖ローマ帝国の東部地方で権力を誇っていた有力貴族・バートリ家に1560年に生まれた。14歳のとき、百姓の子と「馬遊び」をして妊娠、遠く離れた地で出産して地元の家に預けたという。そして15歳になると、5歳年上の婚約者ナーダシュディ・フェレンツ伯爵と結婚した。
二人はお似合いの夫婦で、夫は戦争のため年単位で家を空けていたものの、6人もの子宝にも恵まれている。勇猛果敢な戦士だった夫はトルコとの戦争で名を上げ、妻の相続分も含め、多くの所領と莫大な財産を誇っていた。そして二人には性格的な共通点もあった——恐ろしいほどのサディスティックさである。
夫のナーダシュディ・フェレンツ伯爵は敵に対して非常に残虐な方法を取ることで知られていた。そして妻エルジェーベトは思春期から、残忍に女中を折檻すると評判だった。女中への折檻は貴族の特権とされていたが、この当時、すでに不作法なことと考えられていた。だが夫は妻の蛮行を止めるどころか、たまに帰国した折には妻に戦場仕込みの拷問技術を教えていた。
後の裁判で、共犯者の一人は夫妻による拷問について証言している。彼らは若い女中を裸にし、全身に蜂蜜を塗って一昼夜立たせた。彼女は全身を虫に噛まれて気を失ってしまったが、伯爵は妻に「こういう場合は油を浸した紙を足の指に置き、火を点ければいい。そうすれば例え死にかけでも飛び起きる」と教えたという。