■死の天使と呼ばれた女
ジェニーン・アン・ジョーンズは1950年7月13日に生まれ、すぐに養子に出されてナイトクラブを経営する実業家夫婦に引き取られた。金持ちの養父母の元で何不自由ない暮らしをしていたものの、子供の頃から芝居がかった言動をし、人の気をひくような嘘をついたり怒鳴ったりすることもあったためにあまり友人もいなかったようだ。16歳の頃に弟と父親が相次いで死亡したが、このときに周囲の同情と注目を浴びたことが後の事件に影響しているという指摘もある。
高校を卒業後、結婚・妊娠して子供を1人出産するも夫とは4年で離婚し、ジョーンズはシングルマザーとなる。母親のサポートもあり、准看護師の資格を取得したジョーンズは病院勤務を始める。
だが、仕事も雑で偉そうな上、職分を超えた判断をしたがるジョーンズは立て続けに二つの病院をクビになる。しかし、看護師不足の世では仕事先に困ることもなく、ベア郡立病院の小児ICUで働き始める。ここでもジョーンズはその性格から周囲との摩擦を起こしたが、一方で意外な才能を示した。彼女は注射が得意で、赤ん坊や小さな子供の細い血管にも確実に針を刺せたのだ。また、薬やその効果にも非常に興味を示し、周囲からは勉強熱心だとみられていた。
その裏で、ジョーンズはすでに悪魔のような所業を始めていた。ジョーンズが小児ICUに勤めた4年間に42人の赤ん坊が死亡、そのうち34人が彼女の勤務シフト中に死んでいたのだ。しかも、ジョーンズは患者の急変を正確に予知することもあった。周囲の看護師や医師も異常には気づいており、ジョーンズは「死の天使」と噂された。ある赤ん坊は必要のない血液の抗凝固薬であるヘパリンを注射されて死にかけたが、ジョーンズは疑われることはあってもクビにはされなかった。
とはいえ、病院というのは利用者からの信用を重視する場所である。相次ぐ子供の不審死が世間に騒がれる間に先手を打ち、小児ICU勤務には正看護師資格が必要とルールを改め、その資格のないジョーンズをうまいこと辞めさせた。