データセンター事業過当競争の不思議
さらに、データセンターでおこなうクラウドサービスというのはコンピューター自体ではなくコンピューター機能のリース・レンタルなのですが、まるで伏魔殿のような怪しげな事業となっています。次の2枚組グラフにその不思議さがよく表れています。
まず左側ですが、積極的な設備投資で「多店舗」展開をしているか、出店は極度に絞りこんでいるかで、全世界のクラウド事業におけるシェアがどう違うか、あるいは収益性に差が出ているかというと、ほとんど脈絡のない数字が並ぶのです。
データセンター数で断トツのマイクロソフトの市場シェアは2位の25%で、約3割事業拠点の少ないアマゾンが首位の31%、そして拠点25ヵ所でシェア12%のグーグルは、クラウド事業で儲かっているかと思うと赤字といったぐあいです。
さらにデータセンターはとんでもない電力浪費だということが、右側のグラフに出ています。世界中のデータセンターの電力消費量を合計すると、イタリア、台湾、オーストラリア、スペインといった国々より多いのです。
しかも、データセンターの消費する電力の4割はコンピュータの運用ではなく、狭い場所に集中して置かれたコンピューターがかなり大量の熱を発するために必要となる空調・送風設備にかかる電力なのです。
明らかにコンピューター機能の集中立地によって規模の不経済が生じているはずなのに、最初に大規模展開をしたアマゾンにとっては営業利益率が37.6%という好収益事業なので、二匹目のドジョウを狙って多くの企業が飛びついたけれども、その後1社として好採算になったところはない事業です。
その理由に関する私の推理は次回説明させていただく予定ですが、ヒントは全米でもデータセンターはバージニア州に集中しているという事実です。
先進諸国では経済全体が製造業主導からサービス業主導に変わるにつれて、重厚長大製造業という大口顧客が衰退した電力産業は慢性不況化していました。
そんな中で、データセンターが多いバージニア州だけは、電力消費量が顕著に増加しています。この州にアマゾンのAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)部門のデータセンターが林立し、アメリカ国防総省本庁舎ペンタゴンも、CIA本庁舎も存在しているわけです。
電力会社はデータセンターさえ建てさせれば電力需要が伸びると思いこんでいるようですが、私は「守秘義務」を口実にアメリカ軍やCIAがべらぼうな大金をアマゾンのクラウドサービス利用に際して払っているだけで、まったく再現性のない特殊ケースだと思います。
エヌヴィディアの株価暴落はシスコ型か、エンロン型か?さて、話をエヌヴィディアに戻しますと、決算のたびに強気予想をさらに上回る実績を叩き出してきたエヌヴィディアの従業員1人当たり時価総額は1億200万ドルで、同率2位のアップル・メタの5倍以上という突出した水準になっています。
しかし、その裏にはGPUを大量納入した客先からクラウドサービスを大量購入するというコミットメントが貼りついているわけです。しかもその金額は、今年の4月で90億ドルに近い水準に達しています。
製品の売上もクラウドサービスの購入予約も架空のまま、いつまで好収益・高成長のふりをし続けることができるのか、大いに疑問です。
そして、業績が傾いてきたかつてのマグニフィセント7の片割れから「実際にカネを払って今まで予約していたクラウドサービスの購入を実行してくれ」と言われたとき、キャッシュフローが回るのでしょうか。
ものごとの本質はときに些細なディテールに潜んでいるといいます。そういう意味では、次の2枚の写真はとても不吉な感じがします。
そして、ちまたでは今回のエヌヴィディア株の急騰が、2000~02年のハイテクバブルの崩壊を告げる株式分割をおこなってから急落したシスコ株の値動きに似ていることが話題となっています。
シスコ株は大暴落しましたが、今なお小さいながらも安定したニッチを築いた企業として生き残っています。ですが、ほぼ同じころ急騰したあと、株価が大暴落しだけではなく、破産申請に追いこまれて消滅したエンロン株の値動きもエヌヴィディア株によく似ていたのです。
エンロンもまた系列下の企業と循環取引をして売上や利益を大幅に膨らませた決算を開示していた企業でした。私は、エヌヴィディアの今後はシスコよりエンロンに似たものとなるだろうと考えております。
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編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2024年6月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。