将来世代の負担をどう見るか

まだ生まれていない将来世代の負担総額(A)は、政府が毎年支出する予算として歳出する金額(C)、国債など国の借金としての公的債務(D)、各種年金など社会保障費関連費用などの潜在的債務(V)があるが、もちろん現在世代の支払う税負担や社会保障関連費用(T)などが差し引かれることを(1)は示している。

コトリコフとバーンズは、将来世代の負担ができるだけ軽くなる手法として、「世代会計」手法を考案したことになる。「我々は集団で、子供たちにわずかな手掛かりさえ与えずに彼らの経済的未来を危険にさらしている」(同上:334)にその意図が読み取れる。

(1)を使えば、Aをできるだけ少なくするには、CDVを減らし、Tを増やせばいいのだが、各世代が置かれたさまざまな事情があり、それは簡単ではない。

世代内でも世代間でも鮮明な階層格差が存在する

なぜなら、世代内でも世代間でも鮮明な階層格差が存在している事実への対処が、「世代会計」でも難しいからである。

加えて『全世代社会保障』では、(1)のA(将来世代の負担)を軽くするために、T(現在世代の支払う税や社会保障負担)を増やすことではなく、同じくT(現在世代)に所属する「若い世代」(T1)と「高齢世代」(T2)の間にも「負担」の在り方を見直そうという提言が含まれている。

それは、「社会保障を支えるのは若い世代であり、高齢者は支えられる世代である」(『全世代社会保障』:5)という文章に、「負担見直し」の意図を見る。マスコミでは、この文章から直ちに「高齢者の負担増」という解説をしていたが、それ以外の負担増には触れなくてよいか。

「C+D+V」はそのままか

肝心なことは、「負担を将来世代へと先送りしない」のならば、何をどうすればいいのかにある。そうすると、(1)の公式からは「C+D+V」、すなわち、「政府予算+国債などの公的債務+社会保障費関連の潜在的債務」の削減方針もまた浮かんでくる。

いわゆる無駄遣いを減らすことも同時に「基本理念」に組み込まれるはずである。たとえば、この数年は防衛費と同額の6兆円であった「少子化対策」の成果が、「待機児童」を減少させた以外には記されていない(同上:9)ことからも分かるように、予算の使い方に問題がある政策も多かったように思われる。

その他にもコロナ関連の大盤振る舞い、東京五輪での予算超過と贈収賄事件、これまでに「地球温暖化対策」や「脱炭素」で無駄に使ってきた100兆円(渡辺、2022)など、予算でも公的債務でも削減できる費目は数多いであろう。しかし、その見直しに『全世代社会保障』は積極的ではない。

『全世代社会保障』では、さらに「世代間対立に陥ることなく、全ての世代にわたって広く共有していかなければならない」(同上:5)とはいうものの、その共有方法は示されていない。

未曽有の総人口減少、出生数の減少、若者減少、高齢者増大、単身者増加の時代に正対するためにも、「世代」という発想を重視する戦略が有効であると考える注7)。

注1)『ビジョン2100』についての詳細な特集は『中央公論』(第1683号 2024年2月号)に詳しいので、ここでは触れないことにする。

注2)なお2024年4月現在で、20都市の過去1年間の総人口のうち増加したのは大阪市、福岡市、川崎市、さいたま市、千葉市、名古屋市の6都市であり、東京都区部の人口も増加した。ただし、以下に使う人口の「自然増減」と「社会増減」のデータは、いずれも該当する政令指定都市のホームページで公表されている2023年度か2022年度の「統計書」から得ている。この点で2024年段階の動向とは異なるため、データの解読には注意してほしい。

注3)広島市の人口統計では自然増減と社会増減に加えて、「その他の増減」として「職権記載」と「職権消除」が示されていて726人の社会増が記載され、他の政令指定都市とは異なる統計法が使われている。しかし、本稿では比較のために、他の政令指定都市と同じく自然増減と社会増減のみを使うことにする。

注4)仙台市も「その他増加数」として、職権記載・消除、国籍取得・喪失、転出取消などを別途計算して16人としているが、ここでは比較するデータの一貫性を守るために、このデータについては割愛した。

注5)東京都区部全体については適切なデータが得られなかったので、解説は省略する。

注6)ただし、2024年3月段階での大阪市と千葉市はこの限りではない。

注7)金子編(2024)では「世代」について幅広く取り上げて、スキデルスキー親子の理論なども踏まえて、「世代会計」についても詳しく触れている。

【参照文献】

人口戦略会議,2024,『人口ビジョン2100 - 安定的で、成長力のある「8000万人国家」へ 』同会議(1月9日). 金子勇,1998,『高齢社会とあなた』日本放送出版協会. 金子勇,2003,『都市の少子社会』東京大学出版会. 金子勇,2006,『少子化する高齢社会』日本放送出版協会. 金子勇,2014,『日本のアクティブエイジング』北海道大学出版会. 金子勇,2016,『日本の子育て共同参画社会』ミネルヴァ書房. 金子勇,2023,『社会資本主義』ミネルヴァ書房. 金子勇編,2024,『世代と人口』ミネルヴァ書房. Kotlikoff,L.J.,1992,Generational Accounting,The Free Press.(=1993 香西泰監訳 『世代の経済学』日本経済新聞社) Kotlikoff,L.J.and Burns,S.,2004,The Coming Generational Storm,The MIT Press.(=2005  中川治子訳 『破産する未来』日本経済新聞社). 厚生労働省ホームページ,2024,「令和6年3月分人口動態統計速報」(5月24日) 三村明夫ほか,2024,「特集 令和生まれが見る2100年の日本」『中央公論』(第1683号 2024年2月号):16-97. 内閣官房,2023,『こども未来戦略』(12月22日). Skidelsky,R.& Skidelsky,E.,2012,How Much is Enough?:Money and Good Life. Other Press (=2022 村井章子訳『じゅうぶん豊かで、貧しい社会』筑摩書房). 渡辺正,2022,『「気候変動・脱炭素」14のウソ』丸善出版. 全世代型社会保障構築会議,2022,『全世代型社会保障構築会議報告書』同構築会議(12月16日).