厚生労働省が5月24日公表した「令和6年3月分人口動態統計」(速報値、外国人を含む)によると、2024年1~3月に生まれた赤ちゃんの数(出生数)は、前年同期比6.4%減の17万804人だった(図1)。この数字から見れば、依然として少子化は続いている。
12月までの折れ線グラフは2023年1年間の傾向であるが、3月までだけを比較しても、2024年の出生数はいずれの月も前年よりも少ない。ただし、この3ヶ月分を単純に4倍にして12月末までを推計して、1年間の合計を68万3216人とすることはできない。なぜなら、図1で示されるように、例年夏場を迎えると出生数がやや増えるからである。
令和6年3月分人口動態統計「死亡数」逆に死亡数は0.5%増の44万1370人で、出生数との差にあたる人口の自然減は27万566人だった(図2)。死亡者数も4倍すれば、年末までに176万5480人となるが、そのまま機械的に1年間の出生数と死亡数の差を108万2264人として、昨年度の約80万人を大幅に上回る人口減少が見込まれるというわけにはいかない。
なぜなら図2のように、夏から秋にかけては死亡数が減少する傾向にあるからである。毎月の死亡数が同じわけでもないから、このままの単線的な推計結果を示せないのである。
しかし、2月3月はともに前年よりも死亡者が増えていることを考えると、出生数との差が昨年の80万人に止まるかどうかは予断を許さない。
人口変容に関する論戦が低調このような人口動態が公表され、しかも2023年12月22日には、閣議決定として『こども未来戦略』(『戦略』と略称)が出され、それに呼応して民間の「人口戦略会議」による『人口ビジョン2100 ー 安定的で、成長力のある「8000万人国家」へ 』(『ビジョン2100』と略称)が発表されたにもかかわらず、国会で両者を素材にした10年後20年後を見据えた「少子化する高齢社会」や「人口減少社会」をめぐる論戦が本気でなされたようには思われない。
未曽有の少子化危機を受けた官民の「人口戦略」が出揃ったうえに、前年の人口動態よりも厳しい数字が見込まれるもかかわらず、国会では相変わらずの「政治資金規正」がらみの「論戦」に終始している。
「政治とカネ」も重要なテーマではあろうが、日本の人口動態をめぐる年金、医療、介護、生活保護、地方創生、子育て支援などの国家戦略が、内政的にも外政的にも本格的なテーマとなり得ていないことがもっと由々しき問題ではないか。
2100年でも76歳で生存する可能性が高いこの3カ月に誕生した約17万人の赤ちゃんの大半が、2100年には76歳として生存する可能性は大きいし、そういう時代になったかという昭和団塊世代の感慨には深いものがある。なぜなら、本年度中にすべての団塊世代が75歳を迎え、後期高齢者になるからである。この17万人の赤ちゃんの大半が76歳になった時、22世紀が始まる。
そのようなマクロで長期的な戦略を立てて、これからの時代を現世代がどのように具体的に設計するか。それこそが国民の代表として国政を担う議員と称する人々の最大の課題であろう。