人口動態の地域格差への配慮
『戦略』でも『ビジョン2100』でも、日本全体を包括的にとらえて、その人口動態への多くの政策案が記されている注1)。
それも重要だが、もう一つの方向として、大都市、中都市、小都市・過疎地域などの地域差を考慮した対応も考えておきたい。いわば、人口動態の地域格差への配慮もまた、これからの「人口戦略の異次元性」を構築する軸になるので、同じく1月から3月末までの人口動態統計を手掛かりに、その基礎資料を作成しておきたい。
人口変容の政令指定都市格差周知のように日本の政令指定都市は20都市であり、これに比較対象として東京都区部を加えて、21都市の比較を試みた(東京都区部を一つの都市とする、以下同じ)。
その後で、資料としては2024年1月から3月末までの出生数と死亡数とのデータを使い、「出生数/死亡数」の割合で20の政令指定都市に東京都区部加えて分類した。そうすると、表1から表4を得る。
表1は「出生数/死亡数」の商が0.6なので、死亡数はもちろん多いが、出生数がその60%以上になっているので、依然として相対的に出生率が高い政令指定都市として、川崎市と福岡市が該当した。
川崎市 0.6685 福岡市 0.6673表1 出生数/死亡数が60%以上 (注)割り算の数値を%で表した(以下同じ)
川崎市の人口動態このうち川崎市は臨海部の工業地帯の集積に加えて、世界的な企業や研究機関の立地が進み、国際的な産業都市づくりが鮮明になってきた。京浜間の交通利便性にも優れていて、良好な住宅地や商業施設が形成されて、人口増加を基調としている。
従って、表1では出生者は死亡者の6割程度でしかなく、自然減ではある。しかし通年では、人口増加が基調となっている。その要因としては社会増が大きい注2)。
ちなみに2022年度では、出生者が11371人であり、死亡者が13732人になったが、転入者が106140人で、転出者が98584人だった。死亡者から出生者を引いた自然減は2361人になるが、社会増としては7556人になるので、全体としての人口動態は5195人の人口増加を得ることになった。
福岡市の人口動態一方福岡市も、アジア圏のいわば窓口機能に優れていて、陸(博多駅)、海(博多港)、空(福岡空港)による国際的にも交通至便な大都市でもあり、中央区や博多区などでは商業、文化、教育の機能が集積中である。
2022年の出生数は12451人であり、死亡者が14531人で、自然減は2080人になったが、転入者が過去最多の89124人となり、転出者72522人を大幅に超えている。そのため社会増は16602人になり、自然減を引いても14522人の人口増が得られた。
この両者は政令指定都市のうちでも人口増加が顕著であり、日本全国の人口反転にも自治体レベルでは若干ながら寄与してきた。
「出生数/死亡数」の割合が50%以上の都市次に、政令指定都市のうち「出生数/死亡数」の商が0.5以上の都市を見てみよう。さいたま市、東京都区部、熊本市、広島市、名古屋市、仙台市がこれに該当する。要するに、1月から3月までの出生数が死亡者の半数を超えた都市である。
さいたま市 0.5692 東京都区部 0.5671 熊本市 0.54 広島市 0.53 名古屋市 0.52 仙台市 0.50表2 出生数/死亡数が50%以上
ここには首都圏で2都市、西日本で2都市、東海と東北でそれぞれ1都市が該当した。いずれもその地方一帯の拠点都市であり、周辺からの流入があり、社会増が自然減を上回っている都市が多い。
2023年のさいたま市の出生数は9547人、死亡数は13548人であり、自然減が4001人に上った。しかし、転入が82820人、転出が73061人となり、社会増として9490人を数えたので、自然減を差し引いても、5489人の人口増加となった。
熊本市と広島市では人口減少熊本市では2022年の出生数が5817人、死亡者が8212人で、自然減は2395人になった。一方、転入者は42089人、転出者が39942人だったから、2147人が社会増と見られるが、自然減との差が248人あり、全体としては人口減少に転じた。
広島市でも総人口は減少中である。2022年の出生数が7894人、死亡者が12663人で、自然減は4769人になった。一方、転入者は32549人、転出者が36124人だったから、3575人が社会減となり、自然減の分を加えると8344人の人口減少となった注3)。
名古屋市ではどうか。ホームページに公表されている統計書によれば、令和5年(令和4年10月から令和5年9月までの1年間)の自然増減数は9529人の自然減、社会増減数は10434人の社会増となった。自然増減数と社会増減数の合計で、905人の人口増となった。
2022年の仙台市の出生数は7118人、死亡数は10825人であり、自然減が3707人を数えた。しかし、県内からの転入が30355人、県内への転出が28942人となり、さらに県外・国外からの転入者が36996人で、県外・国外への転出者が32583人となったので、合計すると社会増として5844人を数えたので、自然減3707人を差し引いたら、2137人の人口増加が得られた注4)。
以上、表2までの8都市(東京都区部も含めて)は今後とも人口反転の可能性に富むといっていい注5)。
しかし、表3と表4に属した残り13の政令指定都市では自然減が大きいために、かりに社会増があっても、総人口の減少は避けられない注6)。
岡山市 0.48 横浜市 0.47 大阪市 0.45 浜松市 0.4129 相模原市 0.4101 千葉市 0.4064 神戸市 0.4038表3 出生数/死亡数が40%以上
堺市 0.39 京都市 0.38 札幌市 0.37 北九州市 0.36 新潟市 0.35 静岡市 0.32表4 出生数/死亡数が30%以上