政令市の処遇に差をつけられるか
なお、『人口ビジョン2100』を特集した『中央公論』(2024年2月号)では、「帰路に立つ政令指定都市」を取り上げて、「政令市の処遇にあえて差をつけよ」と主張した(同上:80)。
これまでの表1から表4までの分類もまた、その議論の素材になるであろう。
47都道府県データによる集計次に、47都道府県データを使って、同じように「出生数/死亡数」の商でまとめてみる。表5はその数値が0.5の都道府県である。
沖縄県 0.756 東京都 0.515 滋賀県 0.508 愛知県 0.507表5 出生数/死亡数が50%以上
予想されたように、沖縄県の0.756は驚異的ですらある。すなわち出生数は死亡者の75%もあり、2022年の合計特殊出生率の高さ1.70を裏付けている。
残りは東京都、滋賀県、愛知県であり、いずれも「出生数/死亡数」50%は保っていたが、どこまで社会増に期待できるか。
表6はそれぞれに表1か表2に分類される政令指定都市をもつ府県であるが、同時に過疎地域を府県内に抱えているために、「出生数/死亡数」40%台に止まった。このグループまでは、国の方針や府県庁の取り組み方次第では人口反転のきっかけを掴めるであろう。
福岡県 0.477 神奈川県 0.452 大阪府 0.437 埼玉県 0.415 広島県 0.410表6 出生数/死亡数が40%以上
しかし、27の府県が該当した表7になると、「出生数/死亡数」が30%台なので、この自然減を社会増で補うことはもはやできない。加えて、過疎地域や限界集落の比率が高いので、この問題の緊急性がむしろ高まる。府県庁もまた定住人口の反転を試みる前に、限界集落や消滅集落問題にも取り組まざるをえないからである。
そして表8に該当する11の道県では、後者の問題の深刻さが増してくる。何しろ出生数/死亡数が20%台なのだから、道内や県内の人口減少の速度が速まるからである。とりわけ秋田県では出生数/死亡数が18.5%しかなく、実質的に消滅集落も始まりつつあるのではないか。
地域間の連携は困難以上、「令和6年3月分人口動態統計」で公表された都道府県と政令指定都市の出生数と死亡数を基に、いくつかの分類を行ってみた。
日本全体の人口動態を一律に取り上げて、その減少の原因を探りつつ、反転可能性を模索することは依然として重要ではあるだろう。しかし、その試みはおそらく成功しない。なぜなら、47都道府県間でも20の政令指定都市間でも連携への道のりが見えないからである。
では、代わりに何が想定されるか。
国家ビジョンへの三つの課題人口戦略会議『ビジョン2100』では、
国民の意識共有 若者、特に女性の最重視 世代間の継承・連帯と「共同養育社会」が重点的に並べられた。
まず「1. 国民の意識共有」では、「人口減少のスピード」が速いために「果てしない縮小と撤退」が危惧され、「人口減少が引き起こす構造」的問題として「『超高齢化』と『地方消滅』」があげられた。都道府県でも政令指定都市でも置かれた状況により、それらへの取り組み方には独自性があり、他の自治体への配慮をする余裕はもはやない。
「2. 若者、特に女性の最重視」では「若者世代の結婚や子どもを持つ意欲が低下した」ことの現状分析がなされた。主な原因としては、所得に代表される「経済的格差」に加えて、「子どもを持つことがリスク、負担」になるという現状が示された。そのうえで、この見直しにより、企業の「トップダウン」による「決断と実行」が必要と結ばれた(『ビジョン2100』:7-10)。
世代間の継承・連帯と「共同養育社会」「子育て共同参画社会」論を約30年前から提唱してきた私は、1と2はもちろんだが、特に「共同養育社会」に関心を持たざるを得ない(金子、1998;2003;2006;2016;2023)。
まずこの定義は、「世代間の継承という視点から見ても、母親一人が子育てを担うのではなく、父親はもちろん、家族や地域が共同で参加すること(共同養育)が重要であり、それが子育ての本来の姿ではないか」(同上:11)とされた。
しかしここでの「世代間の継承・連帯」は理念に止まり、いくつかの詰めが残っているように思われる。
世代会計を応用するそこで、コトリコフが開発した手法として「世代会計」論の応用を進めたい。
「世代会計はだれが助けられ、だれが傷つくのかを明らかにする。世代会計では、ある世代が少ない支払いで済むような政策は他の世代にそれに比例したより大きな負担を課すものである」(コトリコフ、1992=1993:30)とされた。
したがって世代会計とは「彼方立てれば此方が立たぬ」部分を必然的にもつ内容としても理解できる。
「世代会計」の公式いわば一つの時代に共存・共生する数世代の中で、何らかの理由で得する世代があれば、必ず損をする世代も生まれる会計方式と当初は考えられたように思われる。
しかし12年後のバーンズとの共著では、(1)の公式が示されて、「政府の請求書をどの世代が払うかを明らかにするために開発された」(コトリコフとバーンズ、2004=2005:332)とされた。
その公式は、
A=C+D+V-T……(1)
ただし、A:将来世代の負担 C:政府支出の現在価値 D:公的債務 V:潜在的債務 T:現在世代の支払う税収の現在価値となる(同上:83)。