勤務間インターバル制度を導入後、どう変わったか

佐藤 制度を導入して以降、成果として評価できることは何でしょうか。

飯田 定量化するのは難しいのですが、フレックスタイムや在宅勤務などとも併せて働き方改革を全体で進めてきたことで、総労働時間が減ってきていますし、年次有給休暇の取得も増えています。年1回実施する社員満足度調査では、勤務間インターバル制度について「働きやすいシフト勤務になった」「育児の時間を確保しやすくなった」などの意見が報告されており、働きやすい風土が形成されてきたと思います。

太田 勤務間インターバル制度の導入だけでは成果を評価できないのですが、勤務間インターバル制度の導入を含む働き方改革全体の取組により、長時間労働の是正に成果が出ています。あえて勤務間インターバル制度の導入前後を比べると、作業所で勤務する社員の1人当たりの総労働時間が10ポイント程度下がりました。もうひとつは、就職先を決めるに当たって、フレックスタイムとテレワークも併せて導入していることを評価して当社を選択した学生もいるので、採用の競争力強化にもつながったと思います。

佐藤 森永乳業さんも東急建設さんも導入から数年たっていることもあって、運用上の課題を捉えて原因究明と対策を立てていらして、これはすごく重要なことではないかと思います。運用を開始すると、さらに制度を良くするための視点が見えてくることもあります。PDCAサイクルを廻しながら、丁寧に進めていくことが重要ですね。

 また、2社とも、制度の導入の目的を労使でしっかりと共有されていて素晴らしいと思いました。東急建設さんがインターバル時間の根拠を社員に説明されていることもすごく重要です。また、森永乳業さんの場合、8時間の事業所と10時間の事業所があるので、社員は自分が適用されているインターバル時間の根拠を知りたいと思うと思います。労働市場も企業風土も日本とは異なる“EUが11時間だから”という説明では納得性が足りないですからね。一般的な生活時間(睡眠、通勤、その他の生活時間)に基づく考え方と総務省の社会生活基本調査などの公的な指標に基づく考え方を踏まえて、自社の実情にあったインターバル時間を設定することが重要です。

 飯田さん、太田さん、これまでの経験を踏まえて、今後の運用方法で改善点などはありますか?

飯田 インターバル時間を「8時間~10時間」に設定していますが、8時間を前提にシフトを廻しているという見方もできるので、社員のさらなる健康維持を図るべく、インターバル時間を少しずつでも延ばすことが今後の課題と受け止めています。ただ、EUのような11時間をいきなりシフト勤務に導入するのは難しいので、各事業所の業務特性等も考慮しながら徐々にインターバル時間を延ばしていきたいと考えています。

太田 当社は健康経営に力を入れていて、前年度から6時間以上の睡眠を確保している社員の割合を増やしていこうと目標値も定めて取り組んでいて、現在の割合は4割程度になります。その推移を見ながら必要に応じて11時間のインターバルの拡大も検討していきたいと思います。

佐藤 最近は、統合報告書や自社のホームページなどでエンゲージメントスコアを公表して、それをどのように活用しているかなど中長期ビジョンとの関係から対外的に発信している企業も増えています。人的資本という考え方も広まってきていますが、人事戦略と勤務間インターバル制度との関係をどのように捉えていますか。

太田 当社の長期戦略はDXと人材戦略を2本柱に据えています。人材戦略では社員のエンゲージメント向上がひとつのポイントだと捉えています。エンゲージメント向上には、多様化する社員が柔軟で生産性高く働くことが出来る職場環境の構築が必要であり、勤務間インターバル制度を含めたフレックスタイム制やテレワーク勤務などの働き方改革諸制度が重要な施策だと捉えています。

佐藤 森永乳業さんはいかがですか。

飯田 当社は、人的資本、すなわち「人財」を企業価値向上の最も重要な源泉であると考えています。投資家などのステークホルダーが人的資本経営の推進に期待することの一つに、生産性向上があると考えます。当社では人的資本に関する目標として、年休の取得率や男性の育児休業取得率といった、どれだけ仕事から離れる時間を設けられているかという項目を設定・開示していますが、社員に対しては、「しっかりと休むことで、働いている時間にいかに成果を上げられるか」といった、生産性向上に取り組むことの重要性を働きかけてきています。

佐藤 最後に、勤務間インターバル制度の導入を検討している企業に対して、先行的に取り組んでいる立場でメッセージをお願いします。

太田 建設業全体で労働者が高齢化しているので、健康維持のために睡眠時間がより重視されます。一方で入職者が減ってきている業界なので、働き方改革を進める上で勤務間インターバル制度の導入は重要なポイントになると思います。

飯田 最初は慣れないと思いますが、慣れればスムーズに運用できるようになりますので、「やるか、やるか」という制度だと思います。ワーク・ライフ・バランスの実現のためには時間をかけて取り組む必要があるので、自社に合った勤務間インターバル制度にしていくために、根気強く取り組みましょうとお伝えしたいと思います。採用のアピールポイントにもなります。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。

勤務間インターバル制度で社員は「働きやすくなった」…採用競争力も強化
(画像=『Business Journal』より 引用)

●労働者にも企業にもメリットが盛りだくさんの「勤務間インターバル制度」。

重要性や企業が導入・運用するうえでの情報発信している『勤務間インターバル制度導入促進シンポジウム』を下記リンクからご視聴いただけます。

●厚生労働省では、「働き方・休み方改善ポータルサイト」内にて、制度を導入・運用する際のポイントをまとめた「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」、制度導入に取り組む中小企業事業主の皆様が受けられる助成金、制度を導入している企業の事例等をご紹介しています。

(構成=Business Journal編集部)

提供元・Business Journal

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