勤務間インターバル制度導入に当たって解消すべきポイントとは

佐藤 中小企業には労働組合のない企業も多いのですが、企業が様々な話し合いの場を設けて、「わが社の働き方はどうあるべきなのか」と議論を重ねながら勤務間インターバル制度の導入目的をしっかり共有することが大切です。

「わが社には難しい」と思っている企業もありますが、私がお手伝いした企業の中には、何が課題になっているのかを明確にして、解決に向けての助言したことで導入が進んだ例もありました。また、管理職の方から、制度の導入で勤務時間が短くなるために業務がさらに多忙に、そして煩雑になることを懸念する声を聞くこともありますが、間接部門が現場をサポートすることで運用面の課題が解決に向かった例もありました。

 業界や職種・職務など働く場所や働く時間に制約がある業種や職種にこそ、ぜひ導入を検討していただきたいと思います。厚生労働省では、今年度から専門家によるアウトリーチ型のコンサルティングも行っていますので、社員の健康の確保と企業にとってのメリットの両輪で、「できない」ではなく「導入するにはどのようなことが必要か」と前向きに捉えていただきたいと思います。

 さて、前置きが長くなりましたが、先進的な取り組みをしている企業のお話を伺うほうが格段に理解が深まります。飯田さん、森永乳業さんは働き方改革という言葉がない頃に勤務間インターバル制度を導入されていますが、どのような経緯で導入されたのでしょうか。

勤務間インターバル制度で社員は「働きやすくなった」…採用競争力も強化
(画像=森永乳業の人財部労政企画グループ・アシスタントマネージャー、飯田晃彦氏,『Business Journal』より 引用)

飯田 当社において全社的に導入したのは2014年です。当社の工場は3交代制で24時間稼働しているので、事業所によっては労使の話し合いで勤務間インターバル制度を導入している例もありました。

 そのような中、一部の事業所だけで勤務間インターバル制度を導入しているのは不公平なので全社の制度にしたいと、労働組合から提案を受けて会社側と合意をしたという経緯です。「勤務間インターバル」「連続勤務日数」「連続深夜勤務」の3つをセットに制限を設けました。導入に当たっては「そんな制限を設けて大丈夫なのか?」という懸念する声が現場の管理職から挙がりましたが、「社員の健康を守るための措置なので理解してほしい」と丁寧に説明して、インターバル時間に幅を持たせて8~10時間に設定しました。都市部にあり通勤時間がかかる事業所は10時間、通勤時間が比較的短い事業所では8時間というように、事業所ごとに通勤時間を踏まえた時間を決めました。

佐藤 森永乳業さんは、勤務間インターバル制度の導入で苦労されましたか。

飯田 この制度は残業時間の抑制効果もあるものの、交代制をとっている当社の場合は勤務のシフト編成に影響するので、現場の管理者は多少苦労したと思います。しかし当社は食品メーカーとしてお客様に健康を届けるという使命もあるので、その根源となる社員の健康を守るために、その苦労を乗り越えて取り組んでくれました。そして、次第にインターバル時間の確保を前提として働くようになっていきました。

佐藤 東急建設さんは工事現場という工事の内容によって特性の異なる事業現場で働かれていると思いますが、どのように導入に取り組みましたか。

勤務間インターバル制度で社員は「働きやすくなった」…採用競争力も強化
(画像=東急建設の管理本部人事部人事・労政グループ参事、太田喜剛氏,『Business Journal』より 引用)

太田 建設業は天候の影響を受けやすく、お客様との契約工期があるため、どうしても長時間労働に陥ってしまう傾向があります。そのような傾向が近年変化してきていますが、大きな分岐点は労働基準法改正で時間外労働の上限規制が設けられたことです。また、労働者の就業観が大きく変わってきたことも背景にあります。当社では、プライベートな時間を充実させたいという若い世代の社員が増えてきていることも踏まえて、働き方改革を進めてきました。

 勤務間インターバル制度を導入したのは、建設業界は労働災害のリスクが高く、特に睡眠不足による集中力の低下が労働災害につながりやすいので、しっかりとした睡眠時間の確保が大事だと考えたからです。導入に当たっては社員の納得性がポイントだと思っています。当社の勤務間インターバル時間は11時間ですが、社員の通勤時間を調べて平均通勤時間を算出し、睡眠を6時間以上確保した上で休息時間や家族と過ごす時間も計算して、11時間を算出し、その理由を社員に説明しました。もうひとつは、当社の働き方改革はまだ途中なので、就業規則に懲戒規定を設けるのではなく、睡眠時間と休息時間が大事であると労使が理解することを重視しています。

 さらにお客様にも協力していただいています。鉄道の基礎関連工事は終電の後に行いますが、お客様の就業時間は日中で、それに合わせて打ち合わせをすることもあり長期間労働になりやすいのです。そこで勤務間インターバル制度の導入をお客様に説明して、夜勤担当者に対する日中の連絡を控えていただくことをお願いしました。