日本国憲法の第25条第1項に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定されている。この条文を理念にとどめず、字義通り具現化する新たな制度が、普及に向けて加速し始めた。

 勤務間インターバル制度である。当日の終業時刻から翌日の始業時刻まで一定以上の休息時間を設けることで、社員の生活時間や睡眠時間を確保し、心身の健康維持を促すことが目的だ。導入のポイントや成果について、多くの企業に制度導入を指導・伴走する特定社会保険労務士の佐藤道子氏、森永乳業の人財部労政企画グループ・アシスタントマネージャーの飯田晃彦氏(社会保険労務士)、東急建設の管理本部人事部人事・労政グループ参事の太田喜剛氏(社会保険労務士)が議論を交わした。

勤務間インターバル制度とは

勤務間インターバル制度で社員は「働きやすくなった」…採用競争力も強化
(画像=パリテ社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士・佐藤道子氏、『Business Journal』より 引用)

佐藤 勤務間インターバル制度は、十分な睡眠時間と生活時間の確保に資する制度で、2018年に働き方改革関連法に基づき労働時間等設定改善法が改正され、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、労働者の健康の保持や仕事と生活の調和を図るために有効であることから、その導入が事業主の努力義務とされました。労働時間等設定改善法は、事業主に労働時間等の設定の改善に向けた「自主的な努力」を促しているところがポイントです。「自分たちの職場は自分たちで良くしていく」という基本原則に沿って、「勤務間インターバル制度を導入する目的は何か」「制度を導入することでどのようなメリットや効果があるのか」「どのような価値を提供できるのか」というところを、しっかり労使で話し合いながら取り組むことが重要です。

 勤務間インターバル制度が企業の努力義務となった背景には2つのポイントがあります。

 1点目は、長年日本の長時間労働の体質が改善されず、長時間労働の是正や過労死等への対策が喫緊の課題とされていたことです。働き方改革の効果が一定程度みられるようになり、長時間労働の是正は少しずつ進んできています。

 長時間労働の実態がある企業や業界においては、柔軟な労働時間制度のほか、勤務間インターバル制度を導入することが長時間労働を是正するうえでも有効な手段となることが考えられます。

 2点目は、企業を取り巻く環境が大きく変化してきていることです。

 一般的に、労働者はライフステージにおいて様々な事情や制約を抱えながら働いていますが、自らに合った働き方や希望するキャリア形成を指向しながら企業に貢献したいという方が増えたのではないかと思います。

 企業には多様な働き方のニーズを汲み取って労働条件や職場環境に反映させる仕組みづくりが求められているのだと思います。ウェルビーイングが高まることで、ワーク・エンゲージメントが向上し、企業業績にもプラスの影響があることを実感し始めたのではないかと思います。

 また、社会的な観点からは、近年、就業形態が多様化するなかで、すべての働く人が心身の健康を維持しながら働き続けることができる社会が重要であることは、どんなに社会が変わっても変化することのない考え方だと思います。