ムスリムの人たちにとって墓地問題は深刻

 では、別府ムスリム協会と日出町の住民との間に起こった摩擦は、どのようなものだったのか。

「別府ムスリム協会が地域への事前説明なしに、イスラム霊園計画のために土地を先行して買ってしまったことがそもそもの発端といわれています。そのこと自体は別段咎められることではないのかもしれませんが、日出町の住民の方々からすると、自分たちの地域に何ができるのか知らされていなかったのはおかしいということであったのでしょう。イスラムに限った話ではないですが、異なる文化圏の宗教関係の施設を建てる場合は、より丁寧な説明が必要だったと思われます」(同)

 日出町の住民はどのようなことを懸念点として訴えているのか。

「ムスリムにとって土葬は遵守する教義のひとつ。これは、預言者ムハンマドが土葬されたため、それに沿う形で埋葬を行っているからです。しかし、99%が火葬といわれている日本では、土葬への抵抗感は強いでしょう。日出町の住民は、お墓のある土地から腐敗した人体の成分が流れ出し、畑の農作物に悪影響があるのではないか、などと心配されているようです。

 私は環境問題の専門家ではないので、実際に影響があるのか無いのかは言及できません。今回は、当初の計画地とは別の場所に町有地を提供する形で合意に至ったと聞いています。ですが、それで終わりにするのではなく水質調査をしっかり行うことは、ムスリムの土葬文化への風評被害を防ぐためにも重要になってくるとも思われます」(同)

 ちなみに、当初、日出町役場は「墓地が水を汚染するとまではいえない」という見解を示していた。しかし、その後「水質への影響調査が必要」と意見を変えたと言われている。また別の問題点として、日本に住むムスリムのなかには土葬用の墓地が近くにない人も少なくないそうだ。そういった人たちは、どのようにしてお墓問題に対処しているのか。

「現在、日本全国にムスリムのための霊園は10カ所前後しかありません。そのためイスラム霊園があるところまで遺体を輸送するほかないのです。大変ですが、そのようにして埋葬する以外に手はありません」(同)

 移民が多い欧米諸国ではムスリムの埋葬問題にどのように対処しているのだろうか。

「欧米諸国は公共の霊園にムスリム用の区画が設けられています。イスラム教だけでなく、ユダヤ教、キリスト教などいろいろな宗教に対応した区画が公共の霊園にあります。日本は埋葬に関しては仏教の慣例に従うことがほとんどですが、欧米諸国は多民族国家であることが多く、多様な宗教に対応しているのが一般的です。欧米諸国は基本的に土葬文化も維持しているので、一概に日本とは比較できませんが、埋葬は人権問題ですので、日本でも国の方針として土葬文化を必要としている人に、向き合っていくことが求められていると思います」(同)