現代アメリカ社会は維持補修にまったく無関心

ところが、現代アメリカ社会では、ビッグプロジェクトは華々しく取り上げても地味な維持補修・改築改修といった分野にはあきれるほど無関心です。その証拠をご覧ください。

さびれた地方都市のシャッター街となった商店街のアーケードの支柱なら、これでも仕方ないでしょう。また、不幸にも崩落してしまったとしても、被害はたかが知れています。

しかし、物流拠点としての重要性では全米でロサンゼルス=ロングビーチ港と一、二を争うボルチモア内港の入り口にかかっている長大橋の足元がこの状態というのは、言語道断です。

残念ながら現在のアメリカ社会は、ビッグプロジェクトや最先端の技術で脚光を浴びる人たちは巨万の富を得るけれども、既に存在している社会インフラの安全性を保つ努力をしている人たちは、底辺に追いやられている世界なのです。

インナーハーバーは華麗な観光地に変身したが……

今なお交通運輸・物流の世界で重要な機能を果たしつづけているインナーハーバーにしても、そうした当たり前だけれども庶民の日常生活に欠かせない役割は等閑視され、こじゃれた「再開発」だけが脚光を浴びています。

ところがこうしたおしゃれな再開発に便乗して、周辺に存在していた低家賃で住める賃貸住宅がどんどんジェントリフィケーション(しゃれた改修改装工事による家賃高額化)の波にさらされ、低所得層には住めない地域になってしまいました。

一方、伝統的な工場労働者たちの住まいだったタウンハウス(と言えばファッショナブルに聞こえますが、実態は棟割長屋)の街並みはほぼがら空きで、ゴーストタウンと化しています。

それでもなお、新興企業の中には近隣のワシントンやちょっと離れたニューヨークに比べればはるかに地価が安くてまとまった広さの土地が確保できるということで、流行りのコンセプトばかりを強調する新本社社屋を建てる計画も進行中です。

スポーツ品メーカー大手としては久しぶりのニューフェイス、アンダーアーマーがその典型でしょう。この手のプロジェクトに共通する特徴として「持続可能性」を追求すると称しながら「実現不可能性」に満ちた「緑の革命」路線に異様に執着することが挙げられます。

これが来年竣工する予定の新本社ビルのパースですが、今どき流行りの中層巨大木造建築を目玉にしています。そして、どんなに真剣に「持続可能性」を追求しているかの説明図が次の図表です。

「外気100%取り込み」とはいったいどういうことなのでしょうか。世の中には外気を取りこまずに室内で窒素と酸素のカクテルをつくって供給しているビルがあるのでしょうか。

ただ、この「緑の革命」に対する熱狂ぶりでは、重厚長大産業の生き残り組も負けてはいません。