ロシア連邦解体のカウントダウンか
それにしても「ポストロシアの自由な民族フォーラム」のようなイベントが日本で開催されるとは、ウクライナ戦争以前では考えられなかった。
ロシア自由軍団政治部門幹部のポリョマノフ氏の発言は象徴的だ。「プーチンがウクライナの全面侵略を開始したことで、ロシア連邦崩壊のカウントダウンが始まった」と明言したのである。
他の出席者からも「ロシア連邦崩壊」という表現が何度も出ていた。ウクライナ戦争で、モスクワ出身者より30倍以上も多くの戦死を強いられている(ロシアの独立系メディア「メディアゾーナ」の調査を基に人口比で換算)。ブリヤート共和国出身者も会議に参加した。
ブリヤート共和国の出身で「ブリヤート独立運動」のマリーヤ・ハンハラーエヴァ代表がこう訴えた。
「私たちの民族は、ロシア帝国下で数々の苦渋を強いられてきた。生まれたときからロシア人と差別され、資源は中央政権にもっていかれ地元にはひどい環境破壊がもたらされた」
そのあげく、ウクライナ戦争ではロシア兵として前線に駆り出されて大量の戦死を強いられ、ロシア連邦全体で約45万人しかいないブリヤート人は民族存亡の危機に立たされているのだ。ブリヤートでは、帝政時代に6回も蜂起があったが制圧された歴史がある。
今年1月17日に、全面侵攻以後最大のデモが起きたバシコルトスタン共和国出身のルスラン・ガバーソフ氏(バシキール国民政治センター代表)は、ロシアに対して強い不信感を現した。
「ロシアは伝統的な帝国そのもの。我々バシキール人は、何百年もの間自由を求めて戦ってきたが、そのつど制圧されてきた。世界は何もしてこなかった。
それは、世界がロシアにこのまま存続してもらいたいと思っているからである。しかしウクライナで虐殺を行ったことで、ロシアは自身がモンスターであることを示し、世界はそれを理解した。ロシアは周辺民族を支配下に置きたいという野望をもっており、仮にプーチンが失脚してもロシア国家そのものは変わらない」
このように非常に厳しい見方を示している。

ロシア南部コーカサスに火がつくのか
このロシア後の自由な民族フォーラムは、2022年5月にワルシャワで第1回が開かれ、東京は第7回。その後も各地で回を重ね、情報収集・分析・発言を通して各民族が独立を目指す姿勢を継続させている。
ウクライナ、ロシア反体制派、ロシア少数民族が連携した枠組みが継続されていること自体に意義があるだろう。
ただ、フォーラムに加盟している人々は、主に海外に亡命した人たちだ。ロシア国内でこのような活動をするのは、今のところ極めて困難だ。したがって、ロシア内に実際に住む少数民族の人たちがどう考え何を思っているかがポイントだ。
そして、ロシア内部に実際に住む少数民族の人々と、外部の亡命者たちが今後どのように連携していくかが課題となるだろう。
こうした状況で、独立に向けて最も先へ進んでいるのが、ダゲスタンやチェチェンなどを含む北コーカサス地方である。
2023年11月8日、ブリュッセルの欧州議会庁舎内で重要な国際会議が行われた。関係者に聞いてみると、北コーカサスを巡る壮大な構想があることがわかった。
構想実現に向けて具体的な動きが進展すれば、歴史的事件となるはずである。
目下の焦点は、ロシア南部の北コーカサス地方だろう。ロシアに併合されているクリミア半島の奪還作戦でウクライナが勝利もしくは圧倒的優勢に立った場合、北コーカサスで独立運動が再燃する可能性が出てきた。そうなれば、ロシア全体の問題になる。
106年ぶり 北コーカサス民族連合共和国(山岳共和国)復活宣言
2023年11月8日、北コーカサスをルーツとする人々の子孫や亡命者たちが世界中からベルギーにある欧州議会庁舎に集まり「第3回北コーカサス人民会議」を開催した。
第2回は北コーカサス現地で1917年の開催だから、実に106年ぶりとなる。ロシア革命最中の1917年、この地の少数民族たちが集まり共和国設立を宣言。翌1918年には北コーカサス民族連合共和国(通称・山岳共和国)の独立宣言をした。
周辺諸国も独立を承認し、数年間は実際に独立していたのだ。が、やがてソビエト連邦に組み込まれ、この山岳共和国が消滅させられた。
この地域は数十もの少数民族が住み、イスラム教徒が主流だが、キリスト教徒も住む。山岳共和国のコンセプトは「山岳民」を共通のアイデンティティにしており、宗教や民族を超えようとした意図がうかがえる。
想定されている領域は、カスピ海から黒海に至る地域。ロシア連邦内のダゲスタン共和国、チェチェン共和国、イングーシ共和国、カバルジノ・バルカル共和国、カラチャイ・チェルケス共和国の各共和国に加え、かつて存在したチェルケス王国の領域(ロシア・クラスのダル地方の一部)も含む。
つまり、黒海に面するノヴォロシスク市も含む。ここにはロシアの海軍基地があり、ウクライナに脅威を与えている。ノヴォロシスクの先は、ケル地海峡を隔ててウクライナのクリミア半島だ。
ブリュッセルでの会議は、その「北コーカサス人民国家復興会議」を設置し、次の責任者が選ばれた。
〇議長(将来の大統領)イヤド・ヨガル(チェルケス人実業家=アメリカ国籍)
〇副議長 アデル・バシクゥイ(チェルケス人作家)
〇副議長 シャミーリ・アルバーコフ(イングーシ代表)
〇軍事委員会議長(将来の国防相)アフメド・ザカーエフ(チェチェン亡命政府首相)
〇政治評議会議長イナル・シェリプ(チェチェン亡命政府外相)