現在のホンダにとっての藤澤武夫という存在
今日における藤澤武夫の後継者とも言える、ホンダの取締役会議長を担う倉石誠司 取締役会長(2024年3月時点)は「藤澤武夫の精神とビジョンはホンダを導き続けている」と提唱、その卓越した経営手腕の例として「1950年代の米国で日本企業のほとんどが代理店を通して製品を販売していた状況下に、藤澤武夫はお客さまとホンダの独自の関係を築きたいと考え、独立した販売ネットワークの構築にこだわったことが、後にホンダが米国のお客さまやビジネスパートナー、従業員、さらには多くのコミュニティーとも特別な関係を築いて受け入れられ成功する鍵であった」こと、現在は多くの日本の自動車メーカーも米国で独自の販売ネットワークを構築していて、その先見性については自動車業界のみならず他の日本企業や欧州等の企業において、米国における戦略、事業展開に対して与えた影響は計り知れないと言えます。
現在のホンダにおいて、本田宗一郎や藤澤武夫と一緒に働いて薫陶を受けた世代はもうほぼ存在しないと思われますが、その二人の存在は現在も大きく、時代に即した形で良き示唆を与えていると思われます。
【今後の自動車産業における藤澤武夫の存在感】
現在、自動車産業を取り巻く環境としてはサスティナブル経営が求められ、世界共通の課題としてカーボンニュートラルの実現、そして、業界変革を成したCASE(Connected=コネクティッド、Autonomous=自動運転、Sheared & Services=シェアカーとサービス、Electric=電動化)は、元々メルセデス・ベンツの戦略で「富裕層」「高級車」「厚利少売」を基本とするプレミアムブランドのビジネスを前提とした機能やサービスであるため、技術やサービス、業容がどんどん拡大されて広がり、今や『Brand Originality』が問われる時代に突入しております。
藤澤武夫の提唱した「松明は自分の手で!」は、まさに自分を見失わずに個々の個性と可能性を尊重しつつ、企業においてもブランドは自分の手で磨き込んで築くものであると捉えることができます。
つまり、現代においては“個人の個性が企業や業界へ活かされる”経営が求められていると考えられます。
従って、規模が大きい大企業ほど変化に対応するのが困難であるため、新興企業の勢力が台頭する現状は万物流転の法則によって巨大になったホンダが、今度は逆にどのように対応するかが注目されます。
時勢からも自動車のパワートレインがBEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー型電気自動車)一辺倒から、既存のエンジン車も含めた合成燃料やバイオ燃料などのカーボンニュートラルを実現する燃料の使用、プラグインハイブリッド車や燃料電池車といった、全方位的に適したパワートレインを各地域で効果的に使う戦略へと各社が方針を転換している中、創業者である本田宗一郎と藤澤武夫のビジョンを受け継ぐ今のホンダは持ち前の素早さでどういった『Brand Originality』を打ち出していくのかに期待と注目ですが、そんな中、2024年2月に発表された“CR-V e:FCEV”は、各種のライフスタイルに応え、日本の自動車メーカー製としては初となる外部充電機能も備えたプラグインFCEV車で、“水素の充填”と“電気の充電”のどちらでも走れるという他には無いホンダらしいモデルで創業者のビジョンを受け継ぎ、今のホンダの『Brand Originality』を表しているモデルではないでしょうか。
今回、ご紹介できた藤澤武夫のエピソードはほんの一握りですが、本田宗一郎がホンダの経営を委ねていたというその存在は現代においても“前に出ずに陰で支える立場だからこそできることもあって、夢や偉業を成しえることができる”と教えてくれて、その自動車業界へ与えた数々の大きな功績は不変的で尊敬してしかるべきと思うと同時に、偉人のみならず数々の先人がそれぞれの役割をきちんと担ってきたからこそ今があるのだと、自動車業界に関わる一員としても感謝しなければならないと思いました。
文・CARSMEET WEB/提供元・CARSMEET WEB
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