財政に対する懸念材料とされる長期金利の上昇

 近年の財政指標は改善が続いている。日銀の資金循環統計によれば、23年12月末の一般政府債務残高/GDP比はコロナ前の水準まで戻っている。また、純債務/GDP比に至っては、実に13年ぶりの低水準まで下がっている。しかし、足元の長期金利上昇で利払い費が増えることを理由に、財政悪化を懸念する向きも少なくない。

 ただ、長期金利の上昇がインフレ率や名目経済成長率の上昇に基づくものであれば、一方で税収も増えるため、必ずしも長期金利の上昇が財政悪化に直結するとは限らない。そこで本稿では、長期金利と財政の関係について検討し、今後の政策対応について考えてみたい。

金利上昇局面でむしろ財政改善

 まず、日本の代表的な財政指標であるプライマリーバランス/GDP比(以下、PB/GDP)と長期金利の関係を見ると、むしろ長期金利が上がる局面でPB/GDPが改善し、下がる局面で悪化する関係にあることがわかる。特に1980年代後半のバブル期には長期金利が上がる中でPB/GDPが黒字幅を拡大し、90年以降のバブル崩壊期には長期金利が下がる中でPBは赤字に転換している。また、戦後最長の景気回復期となったいざなみ景気時も、長期金利が小幅上昇する中でPB/GDPは赤字幅を大幅に縮小している。そして、コロナショックでPB/GDPが大幅悪化して以降も、長期金利が上昇する中で赤字幅を縮小している。

 この背景には、

(1)そもそも長期金利が上昇する局面というpbも高まる局面であり、金利上昇に伴い利払い費が増える以上に税収が増加する。

(2)金利上昇に伴い利払い費が増えるとはいえ、一義的には国債の新規・借換発行分の利払い費が増え、トータルの利払い費の増加は限定的である。

こと等が考えられる。実際に、名目経済成長率と長期金利には明確な正の相関関係がある一方で、国債の平均利回りは長期金利ほど大きく変動していない。

 というのも、フィッシャー方程式という金利決定の理論に基づけば、長期金利は期待インフレ率と実質金利の代理変数となる潜在成長率とリスクプレミアムを反映して決まるとされている。そして、期待インフレ率は実際のインフレ率に左右され、潜在成長率も実質経済成長率の影響を受けることが知られている。なお、リスクプレミアムについては、足元でソブリンCDS価格をG7で比較すれば、日本はドイツについで2番目に低リスクとなっている。このため、その足し算となる名目経済成長率と長期金利が関係することは理論的にも説明できるといえよう。

 このように、長期金利が上昇する局面では名目経済成長率も高まって税収が増えやすくなること、長期金利が上昇しても国債の平均利回り上昇は限定されること等により、金利上昇時にむしろPB/GDPが改善する要因となってきたといえよう。

純債務/GDP比が記録的な低水準に下がっていた…金利上昇→財政悪化の嘘
(画像=『Business Journal』より 引用)