冬眠と睡眠はまったくの別物だった
現代でもたまに冬眠する人が見つかる。 2006年10月7日に神戸・六甲山で転落した35才男性が救出された。なんと24日間も飲食をせず、発見された時の体温はわずか22度。一般的に体温が30度以下になると低体温症になる。意識がなくなり、約5分で脳の機能が回復不能、心停止すると言われているが、特に障害も残らなかったらしい。
本人は事故翌日から記憶がなく、ずっと昏睡状態だった。
2011年12月19日から2012年2月17日までの2カ月間、スウェーデンで車ごと雪に埋もれていた45才の男性が救助された。男性は食料がまったくないまま、溶かした雪で命をつないだという。救助された時の体温は31度しかなかった。
人間にもクマやリスのような冬眠の機能があるらしい。
冬眠中の動物は、呼吸をほとんどしない。心拍数は1分間に数回まで低下、体温も下がる。限りなく死んだ状態になり、極限まで代謝を落とすのだ。それにより、数カ月間、食べ物も飲み物も必要がなくなり、ひたすらに眠る。
冬眠中の生き物では、面白いことが起きる。
まず放射線に対して異常に耐性が強くなる。冬眠中のリスの皮膚に、わざと発癌性のある物質を塗ってもガンにならないのだそうだ。細菌にも感染しにくいらしい。
病気の人を冬眠状態にしたら、案外と病気が早く治るのではないか?何カ月も冬眠していた動物が、さっき寝たかのように、さっさと動き出せるのも妙な話だ。入院したことがあればわかるだろう が、1週間寝ていただけで、体が重くて立てなくなる。筋肉が弱っているのだ。
冬眠中のリスは腸内細菌がタンパク質を作り、クマは筋肉を増やす物質が血液中に生まれるのだという。筋肉が落ちないように、タンパク質を補給する仕組みがあるらしい。
ずっと寝ていれば、寝たきり老人のように床ずれができそうだが、クマに床ずれは起きない。血栓を作る血小板の生産が通常の55分の1まで減るからだ。また冬眠前に異常に食べるので、中には糖尿病になるクマも出そうだが、糖尿病にはならない。ちゃんと糖尿病の原因になるインスリンの異常を抑え込むタンパク質が作られるのだ。
冬眠と睡眠はまったく別物だ。冬眠中のクマの血清を人間に打ったら、筋肉量が増えたという研究もある。冬眠の秘密がわかれば、医療が変わるかもしれない。