「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」の走行インプレッション

フェラーリでは、運転する楽しさを5つの指標で測定しているそうで、いわゆる開発要件が存在しています。

『5つの指標』
① 横方向:ステアリングの操作に対する反応、ステアリング操作に対するリアアクスルの素早い反応、楽しいハンドリング
② 縦方向:アクセルペダルに対するレスポンスの速さとなめらかさ
③ シフトチェンジ:シフト時間、シフトアップやシフトダウン時の手応え
④ ブレーキ:制動距離と応答性に関するブレーキペダルの感触
⑤ サウンド:キャビン内のサウンドの大きさと品質、回転数が上昇するにつれてのエンジン音の響き

「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」を実際に運転してみるとそれら『5つの指標』が高いレベルで達成されていると感じます。
もちろんプロレーサーによるサーキットでの限界走行ではなく、一般道や高速道路での通常走行のため確認できる範囲は限定的ですが、逆に言えば街乗りでも十分にそれらの指標に対する卓越したフィールは伺い知ることができます。

「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」の『5つの指標』フィーリング
① 横方向:唯一無二と言っても過言ではないオンザレールのハンドリングを街中でゆったり走っている時でも体感することができ、特にわかりやすいのは「eDrive」モードです。
理由は、強烈なエンジンの魅力まで入ってくると人間の五感がキャパオーバーするためで、エンジンの音や振動が無い「eDrive」モードであればステアリングに対するソリッドで精度の高い追従性を体感しやすいです。
② 縦方向:エンジンとモーターによるトルク感が心地良く、切り替わりがスムースで、右足からタイヤまでつながったような感覚と応答の良さを持っています。
③ シフトチェンジ:エンジンによる加速の際にDCTが的確にシフトしてパワーを路面に伝え、速度がリニアに上昇するフィーリングを持ちます。
④ ブレーキ:制動の感覚を一度つかんでしまえば、思った通りの減速感でピタリと狙った位置で車両を停止することができます。
⑤ サウンド:「ホットチューブ」による極めて官能的でV型6気筒エンジンとしては世界一?と思えるほどの素敵なエキゾーストノートが聞こえ、さらにオープントップの状態ではマフラーエンドからエンジンがなめらかに回転していると思える柔らかくも刺激的で良い音が響いてきます。

いずれもフェラーリの5つの開発要件は高く設定されていて、「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」は指標としての基準を確実にクリアしていると感じます。

運転していて最も感動的で魅力的であると思ったのは動力面、つまり、パワートレインでV型6気筒ツインターボエンジンを中心としたハイブリッドシステムの完成度の高さは830psという圧倒的パフォーマンスを発揮する一方で、エンジンとモーターの走行の切り替わりやハイブリッド運転が本当にスムースで違和感が一切ないところが驚異的で、極めて緻密に各所が制御されている素晴らしいパワートレインです。
最大のパフォーマンスを発揮する「Qualify」モードのフルスロットルではレブリミットの8500rpm付近までコントローラブルに鋭く吹け上がり、ワープする感覚と言っても良い異次元の速さで、「Hybrid」モードでもスロットルを開けば高速道路で加速が必要といった時でさえもすぐにアクセルを戻してブレーキングが必要であるほど驚異的に加速するにもかかわらず、ゆったりと走る際にはアクセルワークに気を使わず優雅に乗りこなせるハイブリッドシステムのコントローラブルな仕上がりは秀逸です。

120°バンク角のV型6気筒ツインターボエンジンの振動は小さくスムースで低回転域から高回転域までストレス無く回り、ハイブリッドによるモーターのアシストもあるとは思いますが、ターボラグを感じさせることのない扱いやすさでトルクフルに高回転までふけあがるエンジンは世界最高峰と凄みを感じます。
また、エンジン始動時には動力伝達がカットされるのでフィーリング面でも全く違和感がなく、走りへの影響も無いため運転がしやすく、シフトアップもダウンも8速のF1 DCTとハイブリッド協調制御が実に卓越していてスムースで違和感のない操作性と快適性を持ちあわせています。

微妙なフィーリングといったところでは、チャージモード(発電している)時と走行モード(動力伝達している時)ではエンジンへの抵抗が異なるので、腰元付近に感じる振動が異なることを気にしていると感じます。

走りと乗り心地の面では、サーキット向けにセッティングされているサスペンションは硬く、橋梁の継ぎ目の段差等では突き上げ感はあるものの、街乗りにおいても許容できるレベルで、スタビリティの高さやハンドリングの良さといった感動からすると相殺して許せるものと思えます。

使い勝手の面では、最低地上高の低さや低偏平タイヤ、後退時の視界といったあたりに非常に気を使うものの街乗りは十分に可能で、そこはスーパースポーツカー、通常のセダンやミニバンに比較すれば使い勝手や使用における範囲の制限は存在していて、逆にそれこそが特別感と緊張感であって魅力と思えるのではないでしょうか。

装備面では、シートの上下(斜め方向)以外の調整が手動であるため、通常はコストダウンとも思えるところですが、シートシェルがカーボンファイバー製ということもあって、これは軽量化が図られていて好ましいと思えるのもスーパースポーツカーだからこそです。
また、オープントップならではの魅力である解放感、爽快感は格別で60km/hぐらいまでの走行においては車内への風邪の巻き込みも少なく、ルーフの開閉も早くてスムースで優雅にゆったりとエキゾーストノートを堪能できることも大きな魅力だと感じます。

では、リクエストはもうないのか?と問われれば、エンジンだけを体感したい!と思った場合に意図的にエンジンだけで走行できるモードが欲しい!と思うのは贅沢の極みでしょうか。

結論として、「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」は次世代に向けたスーパースポーツカーとしてあらゆる面で世界をリードする存在であると思います。

「フェラーリ」が提唱する次世代のスーパースポーツカーの姿とは?【自動車業界の研究】
(画像=296 GTS Assetto Fioranoパッケージ 点灯時、『CARSMEET WEB』より引用)
「フェラーリ」が提唱する次世代のスーパースポーツカーの姿とは?【自動車業界の研究】
(画像=296 GTS Assetto Fioranoパッケージ テール、『CARSMEET WEB』より引用)
「フェラーリ」が提唱する次世代のスーパースポーツカーの姿とは?【自動車業界の研究】
(画像=296 GTS Assetto Fioranoパッケージ 主要諸元、『CARSMEET WEB』より引用)

カーボンニュートラル実現に向けたフェラーリのアプローチ

ユーザーや社会からの自動車産業へのリクエストは様々ですが、その中核のひとつが地球温暖化を抑制するためのカーボンニュートラル対応で、それはスーパースポーツカーにおいても同様です。
カーボンニュートラル対応では、ライフサイクルアセスメント(Life Cycles Assessment)として製品やサービスにおけるライフサイクル全体(資源の採掘から、製造、使用、廃棄、リサイクル、他に至るまでの全て)の環境負荷を定量的に評価することが求められていて、フェラーリは2030年までにカーボンニュートラルを実現するための取り組みを進めています。
パワートレインの電動化について2026年までに販売する自動車の約60%を電動車(ハイブリッド車を含む)にする見通しを立てており、電気モーターやバッテリーパック、パワーインバーターといった電動化によって必要とされる製造工程のための新しい建屋の建設も進められています。

また、イタリア、マラネッロの本社敷地内にはセラミックスで構成される燃料電池システム「固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell )プラント」がUSAのカリフォルニアを拠点とする「Bloom Energy(ブルーム・エナジー)」社によって設置され、その燃料電池システムはコンパクトかつ低コストで1メガワットクラスの発電規模を誇り、高い発電効率と環境性能を両立してフェラーリの生産に必要とされるエネルギーの5%を供給することで化石燃料の消費量とCO2の排出量を大幅に削減して環境負荷を低減、カーボンニュートラルに貢献しています。
さらに、この燃料電池システムは燃料として水素だけでなく、天然ガスやバイオメタン、そして複数の燃料を組み合わせて活用できることも大きなメリットです。

さらに、フェラーリはイタリアのエネルギー企業エネルエックス社と太陽光発電所を設置しており、フィオラノ・サーキット(フェラーリのテストコース)に隣接したフェラーリが所有する約10,000平方メートルの遊休地に20年もの間、年間平均1,500 MWhの「フィオラノ・太陽光発電所」の稼働も進めてサスティナブル時代へと向かって邁進しています。

「フェラーリ」が提唱する次世代のスーパースポーツカーの姿とは?【自動車業界の研究】
(画像=フィオラノ・サーキット(Ferrari)、『CARSMEET WEB』より引用)
「フェラーリ」が提唱する次世代のスーパースポーツカーの姿とは?【自動車業界の研究】
(画像=サスティナブル時代のブランドオリジナリティ(ABeam Consulting)、『CARSMEET WEB』より引用)