F1で鍛えられた世界最高峰の技術によって生み出された珠玉のパワートレイン
「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」のパワートレインにはプラグインハイブリッドシステムが搭載されており、エンジンとモーターがTMA(トランジション・マネージャー・アクチュエーター)によって電子制御で迅速且つ極めてスムースで効率的に連携され、エンジン~ハイブリッド~モーターによる走行が電子制御で的確にコントロールされます。
エンジン型式「F163」と称されるV型6気筒ツインターボエンジンには高回転型エンジンに適したショートストローク〔ボア(88mm)×ストローク(82mm)〕とエンジンの高さと重心を低くすることができシリンダーバンク内にターボ等の配置がしやすいバンク角120°、走行時に発生するG(車体にかかる重力加速度)の影響を受けづらく、安定してエンジン内にオイルが供給できるドライサンプ方式が採用され、市販車としては世界トップレベルの1リッターあたり221psにも上る最高出力663ps(488kW)/8000rpm、最大トルク740N・m(75.5kgf・m)/6250rpmを誇ります。
プラグインハイブリッドシステムのモーターはF1同様にMGU-K(Motor Generator Unit Kinetic)と称され、最高出力167ps(122kW)、最大トルク315N・m(32.1kgf・m)、ハイブリッドやBEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー型電気自動車)としての電動走行によってカーボンニュートラルに向けて環境負荷を低減、eDriveモードでは電気のみで最高速135 km/h、容量7.45 kWhの高電圧バッテリーでおよそ25 km走行できるので近距離のドライブであればエンジンを使用せずに済みます。
そして、ハイブリッドシステムはモーターによる電動走行を実現すると同時にもちろんパワーを増強させる機能としての役割も果たしていて、システム最高出力は何と830psという途方もないパワーを発揮、0-100 km/hを2.9秒、0-200km/hを7.6秒、最高速330km/hオーバーを実現しています。
フェラーリが次世代に向けて開発した「F163」 V型6気筒ツインターボエンジンの設計技巧
「F163」エンジン最大の特徴とも言えるV型6気筒でシリンダーバンク角120°というのは、ターボ等のバンク内搭載による吸気経路の最適化、等間隔燃焼とクランクシャフトの高強度化などスーパースポーツカー用のV型6気筒エンジンを設計する場合において、最も適したバンク角と言えます。
特にエンジンの高回転高出力化の際に重要となるクランクシャフトの設計における効果は大きく、等間隔燃焼を実現するためにクランクピンのオフセットを設けなければならないバンク角60°や90°等とは異なり、オフセットを設けずとも良いため、設計ポイントであるクランクシャフトの高強度、高剛性、軽量といった点で優れており、さらに走行性能に大きな影響を与える低重心化といった面でも効果的ですが、120°バンク角のV型6気筒エンジンは全幅(クランクシャフトの回転方向の幅)が広いため市販車のフロントへの搭載が難しいことから稀有な存在です。
フェラーリにはフロントへのエンジン搭載と比較して適したスペースが確保できるミッドシップレイアウトを採用するモデルが存在することと、やはり、スーパースポーツカーを追求するフェラーリだからこそ実現したのではないでしょうか。
また、V型6気筒エンジンは、V型8気筒以上のマルチシリンダーエンジンに比較して、軽量コンパクトで気筒数が少ないことからトータルのフリクションも少なく高効率ですが、シリンダー数が少ないので原則的に総排気量が小さく燃焼圧力の総和によって決まるトルクが細く、出力も低いのがセオリーです。
しかし、「F163」エンジンは、吸入空気量が多く燃焼圧力を高めやすいロングストローク(ストロークが長いので高回転化に難)を採用せずとも、ショートストロークのエンジンにツインターボで過給(吸入空気量増)することで極めて高い燃焼圧力を実現、両立が難しい高燃焼圧と高回転を実現させて、エンジン単体で最高出力663psという圧倒的なパワーを成立させています。
これには、高回転域で太いトルクが発生するエンジンに仕立てた場合に課題となる低中回転域のトルクの細さをMGU-Kが補うハイブリッドシステムの存在はあるものの、何と言っても「フェラーリが誇る高回転域での熱流体力学に基づいた燃焼制御技術やバンク角が広いことで課題となるエンジンブロックの剛性確保などの様々な課題を解決する構造設計のノウハウ」、最大噴射圧が35MPaにも上るインジェクション・システム、18万rpmもの最高回転数を誇り、コンプレッサーやタービンのホイール小径化による慣性質量の低減でターボラグも抑制する世界最高レベルの日本が誇る「IHI製のターボチャージャー」といった、それら数々の世界最高峰の技術によって、他に類を見ないスーパースペックのエンジンが実現されています。
さらに、フェラーリが特許を取得した排気共鳴を活用してエキゾーストノートを奏でる「ホットチューブ」によって、あたかもV型12気筒エンジンの如きハーモニーからエキゾーストノートは「ピッコロ(ミニ)V12」の愛称で呼称されていますが、「296 GTB」用の「ホットチューブ」からオープントップの「296 GTS」用に再設計されているというのもフェラーリだからこそ、そこまでやると思います。