フェラーリは今、地球規模で求められているカーボンニュートラルの実現に向けて、エンジンのダウンサイジング化や燃焼の効率化といった既存技術の磨き込みによる進化とバッテリーとモーターによる走行の電動化といった革新でパワートレインを進化させていて、さらには環境性能に優れた発電施設の導入を行うなど取組みを強化しています。
今回は、その中から次世代のスーパースポーツカーへのあらゆるリクエストに応えるべく、フェラーリのブランドとしては市販車初のV型6気筒エンジンをツインターボで過給、プラグインハイブリッドシステムが搭載されたオープントップモデルにサーキット・セッティングが施された「296 GTS Assetto Fiorano(アセット・フィオラノ) パッケージ」にフォーカスして、次世代のスーパースポーツカーに相応しい圧倒的パフォーマンスによる感動やオープントップによる優雅さなどの魅力、それらを生み出す伝統と技術、将来像を中心にコラムをお届けします。
現代におけるスーパースポーツカーの最適解
始めにフェラーリの車名について、296の29はエンジンの総排気量2992ccから、6は6気筒エンジン、GTとは「Gran Turismo(グラン・ツーリスモ)」で長距離を高速移動できる高性能車といった意味を持ち、「296 GTB」のBは「Berlinetta(ベルリネッタ)」でクーペを「296 GTS」のSは「Spider(スパイダー)」でオープンカーをそれぞれ意味しています。
フェラーリが2021年に発表した「296 GTB」、続いて2022年に発表した「296 GTS」は、カーボンニュートラル時代に適合したプラグインハイブリッドシステムとV型6気筒ツインターボエンジン、デジタルインターフェースといった先進の技術とスーパースポーツカーに相応しい伝統的なデザインのプロポーションとサイズ、軽量高剛性のボディ、パワートレインのミッドシップレイアウトといった次世代のスーパースポーツカーのリクエストに応えるあらゆる要素を兼ね備えています。
では、なぜそれらが次世代のスーパースポーツカーにとって重要であるのか? と言えば、先ずプラグインハイブリッドシステムは充電器から充電したバッテリーの電気のみで走ることができるため、温室効果ガスや大気汚染物質を排出しない「ゼロエミッションビークル」として、各国の排出ガス規制が強まる中、将来にわたって世界中のほとんどの地域で走行することができます。
次に、V型6気筒エンジンは自動車レースの最高峰であるF1(Fomula1)でも採用されているエンジンの気筒配列で、かつてはマルチシリンダー(多気筒)のエンジンで競われていたF1もカーボンニュートラルに向けた時代の流れから、ダウンサイジングとして直列4気筒の採用が検討されていたものの、やはりマルチシリンダーの音やステータスといった側面から6気筒が採用され、現在のF1はV型6気筒ターボエンジンによるハイブリッドシステム〔F1ではMGU-K(Motor Generator Unit Kinetic)+MGU-H(Motor Generator Unit Heat)〕で競われています。
ちなみに、それぞれの用途(回転数や出力、トルク)ごとにエンジンの1気筒あたりで効率の良い排気量があるので、エンジンのダウンサイジングと言えば気筒数を減らすことが常套手段として用いられています。
スーパースポーツカーにおいても、エンジンの効率化と高出力化の両立といった面で6気筒はバランスが取れていて、V型6気筒ツインターボエンジンにプラグインハイブリッドシステムというパワートレインの構成は、まさに現在のF1同様に次世代に向けた一手と言えるのではないでしょうか。
そして、デジタルインターフェースは高度で複雑化したパワートレインや車両の制御といった数多くの情報をインフォメーションする役割とインフォテインメント機能を充足、拡張するといった役割も担うため、今後はAI活用などによる相互方向のコミュニケーションやデータ分析といった機能の進化も含めて必要不可欠で急速に進化している次世代の領域です。
一方でスーパースポーツカーとして、デザインについては伝統的で魅力的なプロポーションと適度なサイズ、素性として旋回性能に優れるパワートレインの搭載レイアウトといったこともまた必要不可欠で、全体が上手くパッケージングされていることがとても重要です。
美しいボディデザインとパッケージの巧妙
「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」の流麗で美しいボディラインはエアロダイナミクスが突き詰められ、走行安定性に寄与するのはもちろんのこと、デザインには伝統も受け継がれています。
フェラーリのデザイン部門を率いるフラビオ・マンツォーニ氏によると、1960年代のロマンティックなデザイン、特に「250 LM」という12気筒エンジンをミッドシップに搭載した初のフェラーリでプロトタイプ「250 P」のベルリネッタ版として登場したモデルの影響を受けているとのことで、往年のフェラーリを知る方にはどことなく懐かしさも感じさせるのではないでしょうか。
スーパースポーツカーとして適度な大きさのボディを身に纏い、扱いやすさと走行性能を両立させているパッケージングは絶妙で、コーナリングを安定させるトレッドの幅(フロント=1665mm、リア=1632mm)とタイヤ及びホイールのサイズ(フロント=245/35ZR20 9.0J、リア=305/35ZR20 11.0J)から1958mmという全幅はドライバーのステアリングやペダルのレイアウト、周辺スペースを鑑みてもバランスが取れていて、全長も4565mmとV型6気筒エンジンを搭載することで(V型8気筒エンジン以上のマルチシリンダー搭載に比較して)短くできるレイアウトの自由度を活かして2600mmのホイールベース、1191mmの全高と相まってプロポーションは端正です。
フェラーリのデザイン力はさすが秀逸でパワートレインという重量物をコーナリング時の旋回性能に優れたミッドシップにレイアウトして、見事に1960年代の傑作デザインにインスパイアされたという古き良き時代のテイストを活かしつつ流麗でエアロダイナミクスに優れた次世代のデザインがアーティスティックに実現されています。
また、「296 GTS Assetto Fioranoパッケージ」にはカーボンファイバーも多用する専用のエアロパーツが装着され、ダウンフォースは250km/hで360kgfにも上ります。
さらに、イギリスのフェラーリ販売店でレースにも出場していた「マラネロコンセッショネアーズ」チームのカラーリングをモチーフにした「250 Le Mans」をインスピレーションとするリバリーデザインの専用カラーリングをオーダーすることもできるため、非常にスペシャル感の高いフェラーリならではのオリジナル仕様に仕立てることが可能です。