2003年9月24日、韓国・ソウル特別市江南区新沙洞の邸宅に住む大学名誉教授夫妻が殺害された。それを皮切りにして、高級住宅地に住む裕福な人たちが殺される事件が続発したが、12月になると金持ちをターゲットにした残虐な連続殺人事件はぴたりと止んだ。

 被害者たちは脳が飛び出るまで頭部をめちゃくちゃに殴打されていたり、首を滅多刺しにされていたりと、その遺体の状態はあまりにも酷かった。単なる金目当ての犯行ではなく怨恨の線もあるとされ、警察の捜査は錯綜し、難航していた。

 そうこうしているうちに、今度はソウル特別市の西部にある麻浦区で、売春婦が次々と行方不明になるという事件が発生した。そして2004年7月15日、売春婦連続殺人犯として逮捕された34歳の男は、金持ちたちを殺していたのも自分だと自供。2003年9月から逮捕されるまでのわずか10ヶ月間で、のべ20人を殺害したと、あっさり認めたのである。

 この恐るべき連続殺人犯の名はユ・ヨンチョルという。身長170cm、中肉中背で、どこにでもいるような風貌の男だった。

■苦難続きの幼少期

 ユは1970年4月18日に韓国南西部にある全羅北道に誕生。生まれて間もなく両親は離婚。乳幼児時代は兄姉とともに祖母に育てられ、その後、ソウルの麻浦区に住む父親に引き取られた。

 父、母ともに肉体労働者で生活はとても貧しかった。学校では貧乏であることをからかわれ、いじめも受けるようになり、「貧乏人は金持ちのせいで暮らしが貧しい。全ては金持ちが悪い」と憎しみを抱くようになっていった。アル中だった父親はユが15歳の時、信号無視をして車に撥ねられて死亡。一家の生活はますます貧しくなった。

 そんなユにも、子供の頃には夢があった。小学生の頃から絵を描いたりギターを弾いたり、歌ったり、詩を書くことに興味を持ち、その道で生計を立てたいと夢見るようになったのだ。しかし、頑張って受験した芸術専門高校は不合格。夢は打ち砕かれ、ユは工業専門高校に進学した。