■巨大殺人ホテルのオーナーへ
薬局のオーナーとなってから程なく、ホームズは通りの向かいに、地元の人々が「城」と呼べるほど巨大な3階建てビルの建設に着手する。完成すると、「ワールズ・フェアー・ホテル」と名付けられ、1893年に開催されたシカゴ万博の来場者向けの宿としてオープン。このシカゴ万博には2700万人もの来場者が訪れ、ホテルは遠方からの宿泊客でたいへん繁盛した。
だが、部屋数が100を超える巨大ホテルの構造は通常のものとは異なっていた。
建物内の廊下は、非常に入り組んでいるうえに、内側からは開けることのできないドア、行き止まりの階段など、まるで迷い込んだものを飲み込んでしまうモンスターハウスのような造りだ。
このホテルを建設するにあたって、ホームズは建設業者に対して、「怠けていて全然仕事をしていなかった」と難癖をつけては解雇し、新たな業者を雇い、再び解雇…。こうすることで、ホームズは建設費用を次々と踏み倒し、タダ同然でホテルを手に入れた。また、それにはもうひとつ理由があり、自分以外にホテルの全体像を知られたくなかったのだ。
完成した「ワールズ・フェアー・ホテル」の全貌を把握しているのはホームズただひとり。この魔宮と化したホテルを舞台に、彼は長年溜め込んでいた殺人欲求を吐き出していった。

(画像=イメージ画像:「Getty Images」,『TOCANA』より 引用)