■悪魔が目を覚ます

 成績優秀だったハーマンは、16歳で高校を卒業すると教師として働き始める。親元を離れて自由になると、17歳の時にクララという女性と結婚。息子のロバートも誕生し、幸せな結婚生活を送っていた。やがて、ハーマンは教師の職を辞めて21歳でミシガン州の大学の医学部へ進学。1884年には医師免許を取得した。

 学歴と資格を得たハーマンだったが、卒業する頃には結婚生活は冷えきっていた。家に寄り付かなくなったハーマンは、やがて妻と息子を見捨て、各地を転々としながら、犯罪に手を染めていく。

 ハーマンがニューヨークへ移り住んだ時のことだ。彼の下宿先の近くで、少年が突然姿を消してしまった。近所の住民は、少年が姿を見せなくなる前に、ハーマンと一緒にいるのを目撃していた。

「あの少年はマサチューセッツ州の自宅に戻ったんだよ」

 住民たちから事情を聞かれたハーマンは、少年失踪への関与を否定したが、その直後に彼はニューヨークを後にする。

 フィラデルフィアに移住したホームズは薬局で働き始めたが、彼の勤務中に不審な出来事があった。その薬局で買った薬を飲んだ少年が、突然、死亡してしまったのだ。この時も、ホームズは不審死への関与を否定し、すぐに店を辞めて街を去ってしまう。

 その後、ハーマンはシカゴへと移住すると、名前をヘンリー・ハワード・ホームズに改名する。これまでに犯した犯罪の被害者が訴え出た際に、自分へと疑いが向けられるのを避けるためだ。

 そして、エリザベス・ホルトンが経営する薬局に雇われ、熱心に働き始めた。やがて、エリザベスの夫が死去すると、ホームズは、この薬局を買い取りたいと話を持ちかける。これに婦人は同意し、ローンで店舗の購入代金を返済していく契約を結んだ。

 こうしてホームズは自分の薬局を手に入れたのだが、しばらくすると、エリザベスは姿を見せなくなってしまう。ある常連客がホームズに彼女のことを尋ねると、親族のいるカリフォルニアへ移り住んだと答えた。それは明らかに不審な失踪だったが、当時は事件として捜査されることもなかった。