■過酷なドメスティック・バイオレンスとイジメの日々
1861年5月16日、後のH・H・ホームズは、ハーマン・ウェブスター・マジェットとしてニューハンプシャー州で誕生した。農業で子供たちを養う両親は、敬虔なメソジストだった。メソジストとはキリスト教の宗派のひとつで、規則正しい生活を美徳とするのが特徴だ。だが、信仰に反して父はアルコール依存症であり、酒に飲まれ、頻繁に家族へ暴力を振るった。
幼いハーマンの悩みはドメスティック・バイオレンスだけではなかった。周りの子供たちよりも、ずば抜けて頭が良かったため、通っていた学校では学友たちから妬まれて壮絶なイジメを受けていたのだ。肉体的にも精神的にも逃げ場のない生き地獄の中で、後の彼の人生を大きく左右する出来事が起きる。
ある日、イジメっ子たちはハーマンを連れて、人気のない地元の病院へ忍び込んだ。小心者のハーマンが怖がるところを見て、楽しもうとしたのだ。彼は病院内にあった人体の骨格模型と対面させられ、骨の手を顔面に乗せられた。
「最初はとても怖かった。だけど、しばらくすると自分が人骨に興奮している事に気付いたんだ」
この体験がきっかけとなり、ハーマンは「死」について興味を覚える。そして、小心者のイジメられっ子は、人知れず動物の解剖を行うようになり、屈折した欲求を満たしていった。