■シャロン・テート殺人事件

 1968年8月8日夜。

 ロマンは映画撮影のためロンドンに滞在していたが、出産を控えたシャロンが心細くないようにと、邸宅には友人たちを招いていた。ハリウッドのスター御用達のヘアーアーティストであるジェイ・セブリング、フォルジャー・コーヒーのお嬢様であるアビゲイル・フォルジャー、元恋人のヴォイテック・フライコウスキーが、運悪くそこに泊まっていた。

 同日夜中、チャールズは寝ている信者2人(スーザン・アトキンス、パトリシア・クレンウィンケル)を起こし、リンダ・カサビアンが運転する車に乗るように命じた。そして、「テックス・ワトソン(信者)の言う通りにするんだぞ」「何かするときはうまくやれ。そして自分がやったという証拠に“悪意のあるサイン”を残せ」と告げた。

 テックスは、「テリーが住んでいた邸宅の中にいる全員を殺せ」とチャールズから命じられていた。チャールズはテリーが引っ越したことを知っていたが、自分を拒絶するハリウッドを象徴するあの邸宅に対しても強い恨みを持っていたのだった。

 目的地に到着したテックスはまず、電柱に登り邸宅の電話線を切断。その時、たまたま用を終えた若いスティーヴン・ペアレントがドライブウェイを通りかかった。テックスは無言で車に近寄り拳銃を向けた。そして「殺さないでくれ。君たちがここにいたことは誰にも言わないから!」と懇願するスティーヴンに至近距離で4回発砲。後にテックスはクリスチャン番組で、「この夜、スピード(ドラッグ)を大量に服用して、どうにもならないほどハイになっていた。何をやっていたか分かってはいたものの、どうでもいいという気分になっていた」と明かしている。

 この頃、シャロンの邸宅の中ではヴォイテックがリビングのソファーで寝ており、アビゲイルはゲスト寝室で読書を、シャロンとジェイは主寝室で話をしていた。

チャールズ・マンソン完全解説! 史上最凶のカルト連続殺人鬼の“身の毛がよだつ生涯”とは?
(画像=現場のリビングルーム。画像は「CieloDrive.com」より引用,『TOCANA』より 引用)

 目撃者であるスティーヴンを一瞬にして殺したテックスは、運転手のリンダを見張り役として車内に残るよう命じ、スーザンとパトリシアを連れてシャロンの邸宅に窓から忍び込んだ。そして、リビングまで進み、皆の前で高らかに「私は悪魔です。これから悪魔の仕事をします」「みなさんを殺します」と宣言した。

「何を言ってるんだ。シャロンは妊娠8ヶ月半なんだぞ!」

 そう叫んだヴォイテックを、テックスは無言で繰り返しナイフで刺し殺した。そして残りの3人を集めて縄で縛ったのだが、お嬢様のアビゲイルが隙を見て逃げ出してしまった。パトリシアは“これは悪事だ”という理性があったものの反射的にアビゲイルを追いかけ、そして庭で押し倒し、ナイフで繰り返し刺した。28回刺され絶命したアビゲイルの最後の言葉は「私、もう死んでるのよ?(なのにまだ刺すの?)」だったという。

 テックスは、同じく逃げようとしたヘアアーティストのジェイに飛びつき、ナイフで繰り返し刺した。遺体には51箇所もの刺し傷があった。震え上がるシャロンを殺したのはスーザンだった。

「お願い。子供を産んだ後に絶対に私を殺させてあげるから、今は見逃して。本当に産後、殺させてあげるから。お願いだから子供だけは助けて」

 そう繰り返し懇願するシャロンを、スーザンは無表情で刺しまくった。スーザン自身も10ヶ月前に出産したばかりで、赤子を持つ母親だったが、後に警察の取り調べに対して、「妊婦であるシャロンを刺している最中、何の感情も湧いてこなかった」と証言している。

 邸宅を去る時、彼らはチャールズに命じられたように「自分たちがやった」と分かる証拠を残した。シャロンの首にはロープを二重巻きにし、さらにそのロープの端をジェイの首に巻いた。スーザンは遺体から流れ出る血をタオルに浸し、強欲な汚い人間のことを指すスラングである「PIG」という文字を玄関に書いた。そして4人は現場を去った。4人の遺体には合計して102もの刺し傷があった。

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(画像=残された血文字。画像は「CieloDrive.com」より引用,『TOCANA』より 引用)

 シャロンたちの遺体は、朝になり、シャロン邸の雑用をこなす19歳の青年が発見。すぐに警察に通報したが、警察はあろうことが「第一発見者が犯人であることが多いから」とこの青年を逮捕した。幸いにもアリバイがあったためすぐに釈放されたのだが、捜査は行き詰まってしまう。

 ホラー映画『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)を撮影していた夫のロマン・ポランスキー監督も疑われた。悪魔崇拝者、悪魔崇拝しているカルト教団の仕業だとも噂された。全米がこの凶悪殺人事件を報道し、大騒ぎとなった。