滑車式を両端に設置して引っ張れる架線の長さ

東北新幹線、なぜ架線が垂れ下がっただけで丸一日も運休?JR東日本の苦悩
(画像=東海道新幹線新富士-静岡間の架線で見られる滑車式自動張力調整装置。装置とはいうものの、単純なしくみで、もちろん問題はないがロッドやワイヤーは華奢にさえ見える。2006年11月22日 筆者撮影、『Business Journal』より 引用)

 さて、架線とは何百キロメートルも一続きであると考えられがちだ。たとえば東北新幹線の場合、架線の一方の端は東京駅にあり、そしてもう一方の端は新青森駅にあるという具合にである。ならば、なぜ滑車式が今回トラブルが起きた場所のように、線路の終点でもなければ、駅などの区切りのよい場所でもないところに設置されていたのであろうか。

 その理由として挙げられるのは、滑車式を両端に設置して引っ張れる架線の長さが1キロメートルから1.6キロメートルまでに過ぎないからだ。したがって、架線はどこまでも一直線に張られているのではない。架線の終端が近づいたらいままであった架線の隣から新たな架線がやってきて、しばらくは両者が重なった状態で進み、やがてこれまでの架線は線路の横へと逃げて架線は入れ替わる。

 新幹線ともあろう近代的な鉄道が、いっては悪いがずいぶんと単純な仕組みで架線を張っているものだと驚く方も多いであろう。滑車式とは、トロリ線、ちょう架線、補助ちょう架線の3本の電線を1本のワイヤーまたはチェーンにひとまとめにして滑車に固定し、一方で滑車に取り付けられたロッドを介して下向きにつり下げたコンクリート製の重りで引っ張る仕組みをもつ。今回トラブルが起きた場所では約1.3トンの重りが用いられていたそうだ。架線を張るための装置といわれてだれもが思い付くつくりだといってよい。

 素人目にも滑車式のワイヤーやらロッドが切れれたらどうなるか予想がつく。今回のトラブルに似た例として、2005(平成17)年11月7日にもJR東日本山手線の有楽町駅付近に設置された滑車式自動張力調整装置のロッドが破損し、山手線や京浜東北線の電車が最大で5時間ほど運転を見合わせるトラブルが発生した。ワイヤーやロッドの老朽化具合を肉眼で点検しただけではわかりづらいので、トラブルを皆無にすることは難しい。