低価格で「手早く酔える」として一時期ブームとなっていたストロング系缶チューハイについて、アサヒビールが新商品を発売しない方針を表明した。26日付「共同通信」記事によれば、アサヒは「健全で持続可能な飲酒文化を目指し、高アルコール商品の展開を控えることにした」という。背景には何があるのか、業界関係者の見解も交えて追ってみたい。
甘く炭酸入りで飲みやすい点や、スーパーやドラッグストアなどでは100円以下で買える低価格さ、そしてアルコール度数が高いため「効率的に酔える」ことが受けて2017年頃からブームに火がついたストロング系。酒類メーカー各社はこぞって新商品を投入し積極的にテレビCMを展開。前出・共同通信記事で示されている調査会社インテージの調査によれば、17年のチューハイ市場のうちでアルコール度数8%以上のストロング系が占める割合は40%強にも上っていた(販売金額ベース)。
現在も各メーカーから多くのストロング系が発売されている。
・アサヒビール
「クリアクーラーSTRONGレモン&ライムサワー」
・サントリー
「-196℃ストロングゼロ」
・キリンビール
「キリン 氷結ストロング」
ストロング系商品をめぐるスタンスは各社まちまちだ。アサヒは前述のとおり新商品の販売をしない方針を決め、サッポロビールは現在も取り扱いはない。一方、サントリーは昨年12月に「-196℃ストロングゼロ<大満足みかん>」、1月に「同<ダブルパイナップル>」、2月に「同<ギガレモン>」を発売するなど、積極的に新商品を投入している。ちなみに缶チューハイの草分け的存在であり今年で40周年を迎える宝酒造の「タカラcanチューハイ」はアルコール度数8%だが、販売当初から現在にいたるまでストロング系を謳ってはいない。
「ストロング系がここまでシェアを拡大させたのは、お酒に弱い層にもお酒が好きな層にも受けたから。お酒が弱い人のなかには、それでもお酒を飲んで酔いたいという人も少なくなく、飲みやすいストロング系はそうしたニーズにもマッチする。一方、お酒が好きな層にとっては安くかつ手っ取り早く酔えるので、願ったり叶ったりの商品といえる」(食品メーカー関係者)
背景に「微アル」ブームも
そんなストロング系缶チューハイをめぐっては、以前から危険性も指摘されてきた。アルコール特有のにおいが弱く、強い甘さでジュースや炭酸飲料のような飲み心地のため、強いアルコール度数にもかかわらずゴクゴク飲めるため、アルコール依存症になるリスクが高いといわれてきた。
「アサヒがストロング系の取り扱いを縮小させるのは、食品メーカーとしての社会的責任という側面が大きいだろう。コロナ禍で人々の在宅時間が増え、一時的にリアルな対面接触が減るなかでアルコール依存症になる人が増えたともいわれており、ストロング系とアルコール依存症の因果関係に関する専門家からの指摘も多いなかで、企業としては『消費者の健康を害するリスクのある商品は販売を縮小すべき』という判断に至ったのでは。国内のアルコール依存症者数は100万人以上と推定されており、社会的問題となっていることを踏まえれば、同様の動きは今後、他の酒類メーカーにも広がると考えてよいだろう。
もっとも、一時のストロング系ブームが沈静化し、現在は逆に『微アル』ブームが強まっているというビジネス的な要因もあるだろう」(同)
実際、前出インテージ調査によれば、缶チューハイ市場のうちアルコール度数8%以上の商品が占める割合は、約25%にまで縮小している。その一方、健康志向の高まりや『酔わずに済む』ことが好感されてアルコール度数0.5%程度の「微アル」系や3%前後の商品がブームとなりつつあり、各社力を入れている。
・アサヒビール
「アサヒビアリー」
「アサヒSlat」
・サッポロビール
「ザ・ドラフティ」
当サイトは18年7月12日付記事『ストロング系缶チューハイ、なぜアルコール依存症患者増加?「缶」ゆえの危険性、がんリスク増も』でストロング系缶チューハイのリスクについて報じていたが、以下に再掲載する。
※以下、数字・時間・肩書等の表記は掲載当時のまま
――以下、再掲載――
アルコール度数が高い「ストロング系」と呼ばれる缶チューハイが大人気となっている。コンビニエンスストアに行くと、アルコール類の棚の大部分をストロング系の缶チューハイが占領し、その人気によって缶チューハイ市場はこの5年間で1.5倍に拡大した。
しかし、気になるのは健康面への影響だ。通常の缶チューハイのアルコール度数が6%未満なのに対し、ストロング系のアルコール度数は缶ビールよりも高い7~9%となっている。そんな強いお酒を100~140円(350ml缶、税別)といった安い価格で飲むことができるのだ。
「手軽で安いから」とすぐに酔える強いお酒を飲み続ければ、健康リスクも高まるだろう。そこで、ストロング系缶チューハイの危険性について医師に聞いた。