独自の電子制御システムが市街地での走りをサポートする

Vストローム800は「スズキインテリジェントライドシステム(S.I.R.S.)」と総称される電子制御システムを備えており、様々なシーンでライダーをサポートしてくれる。
その中でスズキイージースタートシステムはスタートボタンを押すと一定時間スターターモーターが回転するシステムで、スタートボタンを押し続けることなく、ワンプッシュでエンジンがかかる。今回は撮影をしながら150kmほど走行し、その途中で撮影の確認をするためにエンジンを止めて停車し、またエンジンをかけて再スタートするということを何度も繰り返した。その際、始動性のよさもあって本当にワンプッシュでエンジンがかかり、エンジンをかかるまでスタートボタンを押し続けなくてもいいのは、予想以上に便利な機能だと分かった。

エンジンがかかり、クラッチを切ってギヤを入れるとアイドリング回転が少し高くなる。これがローRPMアシストの機能で、発進時のエンストを防いでくれるのだ。このローRPMアシストはエンジン回転数/ギヤポジション/スロットル開度/クラッチスイッチの情報から制御されていて、発進時だけではなく渋滞時の低速走行やUターンの際のエンジン回転もサポートしてくれる。渋滞の多い市街地走行や狭い曲がり角などでエンジン回転数が落ち込みにくいので不意のエンストを防いでくれて、トコトコと安定した低速走行がしやすい。
これはVストローム800の低回転域のトルクが粘るエンジン特性のよさも貢献しているのだろう。今回、信号待ちからの再発進で加速がもたつくことがあったのだが、表示されたギヤポジションを見ると3速発進していたからだ。ライダーのシフトミスでもエンストすることなく、しっかりとアシストされていたことに驚いたのが正直なところだ。


モード変更で自分好みの扱いやすさが得られる

Vストローム800のエンジン特性は、スズキドライブモードセレクターでA/B/Cの3種類のモードに変更できる。どのモードも最高出力は変わらないが、A(アクティブ)モードは低中速域で最もシャープなスロットルレスポンスとなり、すべてのスロットル開度で最大のパワーを発揮するスポーツ走行向きの特性となる。B(ベーシック)モードは中間のスロットル開度がAモードよりマイルドになり、市街地やツーリングでマシンコントロールしやすい特性となる。C(コンフォート)モードは全域でスロットルレスポンスがマイルドになり、滑らかな加速となる。ギクシャク感が減り、タンデム時や雨天時に向いた特性となる。







市街地と緩やかなワインディングで各ドライブモードを試してみたが、個人的にはBモードにいちばん扱いやすさを感じた。どのモードもローRPMアシストのおかげで安定して発進できるが、そこから先の加速で各モードの違いを体感できる。Aモードはスロットル開度を増やすほどに270°位相クランクのスムーズな回転上昇と鼓動感のあるトルクが立ち上がり、コーナーの立ち上がりでは抜群の加速力を発揮する。速度が上がっても前後タイヤはしっかりとグリップ力を発揮し、前後サスもフラットな乗り心地を提供してくれ、低速時よりもしっかりした車体の安定性が体感できるほどだ。ただし加速が鋭くなった分、車体の荷重移動量も増え、スロットルやブレーキの操作で車体がギクシャクした挙動になりやすい。特に交通量が多くゴー&ストップが増える市街地では、個人的には加速が鋭すぎるようにも感じられた。
Cモードは全域でスロットルレスポンスがマイルドになり、加速力も800ccクラスとしては物足りなさを感じる。しかし、スロットル操作に対する車体の荷重移動量も少なくなり、マシン挙動もマイルドになって、乗り心地にも穏やかさが感じられる。雨天時や疲労時にあると便利なモードだと思った。
BモードはAとCの中間的なスロットルレスポンスと加速力を発揮する。スロットルに対するエンジンと車体の反応が予想しやすく、加速は速すぎず、かと言って遅くもない。Vストローム800は「スズキクラッチアシストシステム(SCAS)」を装備し、エンジンブレーキのバックトルクによる後輪のホッピングを低減しているが、その効果でAモードよりも減速時のマシン挙動がギクシャクしない。ハンドリングはどのモードでもクセがなく、交差点などの低速時や、ある程度スピードの乗ったコーナリングでも前輪からスッと車体の向きが変わっていく。車体の倒し込みに重さも感じず、速度に合わせて倒し込んでいっても車体が急に倒れ込んでくることもない。こうした加減速時やコーナリング時にマシンコントロールをしやすいのがVストローム800の乗り味となっており、Bモードはその実用的な乗りやすさとスポーツ性のバランスがいちばんまとまっているように感じられる。




近年のアドベンチャーバイクは高いオフロード走破性も加味されたモデルが人気で、Vストローム800DEはそうした要望に応える一台として登場し、世界中で人気となっている。しかし、大径21インチホイールの舗装路で粘るようなハンドリング、走破性を確保するためのサスストローク長とそれによるシートの高さは、ラフロード走行を考慮していないライダーにはメリットよりもデメリットを多く感じるだろう。
Vストローム800はそうしたラフロード向け機能を省く代わりにオンロード向けに各部を最適化し、アップライトで見晴らしのいいライディングポジションをとりながら、双方向クイックシフターや大型ウインドスクリーンなどを装備して、舗装路を快適にどこまでも走っていける扱いやすさを身につけていた。250/650からのステップアップ、1050からのダウンサイジングとして乗り換えても、800の扱いやすさは多くのライダーが体感できるだろう。