長引く新型コロナウイルス禍を抜けて世界経済が回復軌道に乗るのかと思いきや、米国では早くも景気後退の観測まで出て、先行き不安が高まっている。そんな時代には「安心を得るため、保険に入ろう」という誘いも増えるが、安易に飛びついてはいけない。「生保レディにゴリ押しされて損した」というエピソードは、枚挙に暇がないからだ。

保険は「学習が必要」であるがゆえに……

保険への加入で直接的に大損したエピソードではないが、保険特有の事情がわかる出来事を最初に紹介しよう。

2020年第一生命保険会社の、元生保レディの女性が在職中に顧客から19億円以上をだまし取ったとして警察に告発したことを受け、金融庁に経緯を盛り込んだ経過報告書を提出した。そして管理体制の不備を認め、謝罪した。

元生保レディの女性は約20年間で、20人以上の顧客に対して架空の金融取引を持ちかけた。詐取したのは顧客の手元資金(現預金)や契約者貸付金、死亡保険金、満期保険金、解約返還金などだったという。

この事案の背景には、保険は種類が多く、内容を理解するにはかなりの学習が必要な金融商品という特性がある。このことをまず踏まえてほしい。

営業担当者に悪意がなかったとしても、契約者にとって好ましい条件が揃っている商品は、保険会社からするとあまり儲からない商品であるというケースがある。両者の利益は対立することがあるのだ。そのため、こちらが無知であるがゆえに損をしやすい商品をすすめられる可能性もある。

避けたい「言われるままに契約」

保険は月々の掛金で見ると数千円の出費に過ぎないが、数年間の掛金を合わせると数十万円にも及ぶ。それだけの大金を投じる商品を吟味する上で、特に気を付けたいことは2つある。

1つ目は、「社会の平均を参考にして自分の保障内容を決めない」こと。そもそも、健康状態や身体の強弱は人それぞれだ。もちろん、加齢に伴って疾患を持つ可能性や割合は高くなるが、同世代であっても人によって健康状態は異なる。

必要な保障は自身の健康状態や生活環境、家族構成によって違うはずだ。自分の状況をしっかり把握せずに「平均」を参考にしすぎると、保障を必要以上に付けすぎて「損」をする懸念がある。

2つ目は「内容を理解せず、すすめられるまま契約しない」ことだ。保険に詳しくない消費者は多い。目の前の営業担当者からあれこれ専門用語を並べ立てられても、「じゃあ、それでいいです」と安易に受け入れるのは避けたい。

顧客のことをどれだけ親身に考えるかは、営業担当者によって異なるからだ。こちらが商品の内容を詳しく知ろうとしない態度を見せると、余計な保障が多く、掛金が高い保険をすすめてくることも考えられる。理解できない保険に入っても、いざという時に活用できない。「気になることは、わかるまで聞く」という姿勢が大切だ。

手数料の高い商品に注意

保険を考える際に必要なスタンスを先に理解した上で、具体的にどんな損失の例 があるのか見てみよう。

例えば、手数料の大きな「外貨建て変額個人年金保険」などを契約してしまうこと自体が損失を生むことがある。このタイプだと、仮に退職金1,000万円を入金しても手数料が70万円かかり、スタート時点で原資が930万円になってしまう。つまり、いきなり大きなマイナス(=損失)から運用が始まってしまうのだ。

手数料が高いということは、営業担当者にとってはメリットが大きいということだ。このように、営業担当者と顧客の利益は基本的に相反する。この構造から、保険会社の営業担当者は時に顧客の利益につながる提案をせず、自身にとってメリットの大きい商品を売りたがるという問題がある。

積立にネガティブな見方も

最近は若者の間でも資産形成への関心が高まっており、さまざまな場面で「積立」という言葉が出てくる。しかし、貯蓄型の積立保険に関しては ネガティブな意見も少なくない。

なぜなら、現在のように金利が低い時期に契約すると、低い利率のままで運用が続くからだ。この場合は直接的に損失を出してしまうというよりも、「別に利益を得られるはずの機会を逃した」ということになる。

また、途中で解約すると元本割れを起こす商品も多い。より魅力のある商品が出たり、急に資金が必要になったりしても、元本割れが気になって解約できない。限られた財産が固定され、柔軟性が失われるというデメリットは大きい。

このように、保険という複雑な金融商品はうかつに手を出すと損をしてしまうリスクがある。親切そうに見える営業担当者も、会社の利益につながる個人ノルマと戦っていることを覚えておこう。その上で自分のライフスタイルや健康状態を見つめ直し、本当に必要な保険を見極めてほしい。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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