TSUTAYAの前例
民間企業が運営に関与した図書館といえば、2013年4月にTSUTAYAを運営するCCCが指定管理者となった武雄市図書館・歴史資料館が有名だ。いわゆるツタヤ図書館である。このときの武雄市は、それまで図書館運営の経験・実績がなかったCCCに「独自ノウハウがある」として、公募も入札もせずに随意契約することで、これまでにない新しい図書館ができたと胸を張っていた。ところが、新装開館から2年後、CCCが選書した本のなかに埼玉県のラーメンマップやウインドウズ98の入門書など、極端に市場価格の低い古本が大量に含まれていたことが発覚して大騒ぎになった。批判が殺到したため、CCCは当時の増田宗昭社長名で謝罪文を出す事態に追い込まれ、この件は、のちに予算流用疑惑として住民訴訟にまで発展する。その直後の15年10月にツタヤ図書館として新装開館した海老名市の中央図書館では、「僕ら、武雄市のときはど素人でした」と当時CCCの図書館カンパニー長だった高橋聡氏が記者発表で告白し物議を醸した。
海老名市では、CCCが導入した独自分類では本を探しにくいとされ混乱が起き、共同事業体のTRC図書館流通センターから批判された。『カラマーゾフの兄弟』や『出エジプト記』が「旅行」ジャンルに分類されていることなども取り上げられ、郷土資料廃棄やTカードの個人情報問題など数多くの問題が生じた。現在、CCCが運営する図書館は全国に7館あるが、そのすべてにおいて事業者選定のプロセスが問題視されており、筆者の取材によれば、いずれの自治体も市長の独断によって誘致された事業だった。可児市の新図書館もツタヤ図書館と同じ途を歩んでいくことになるのだろうか。
良品計画は20年8月期に最終損益169億円を計上するほどコロナ禍の打撃を受けたのを契機に、翌年9月、ファーストリテイリング取締役だった堂前宣夫氏を社長に迎え入れ、収益構造を大きく改善するための改革を着々と実行しつつある。その施策のひとつが自治体との連携による、まちづくり事業とみられるが、無印良品によって公共図書館が商業施設のなかで賑わいの象徴になるのだろうか。
テナント誘致に苦しむ商業ビルにとって、自治体が公費で入居してくれる図書館はありがたい存在になる。だが、商業施設内にオシャレな図書館ができて喜ぶ市民も多いだろうが、民間企業が一ビジネスとして介入することで図書館本来の機能が蔑ろにされて、地域の教育や文化を育む土壌が失われていく懸念もある。
武雄市にツタヤ図書館をつくった樋渡啓祐前市長が退任後にCCC関連子会社の社長に就任して批判を浴びたが、可児市の冨田成輝市長の退任後の動向も市民は厳しく監視していくべきだろう。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)
提供元・Business Journal
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