15年の長期賃貸契約
では、可児市は良品計画が持つどのようなノウハウにひかれたのか。そこで筆者が可児市に事業決定までのプロセスがわかる資料を開示請求して出てきたのが、前出の良品計画が可児市に提出した提案書である。この提案を審査会で検討した幹部職員の評価表もすべて黒塗りだった。これでは、どのような評価を受けて良品計画の提案が採用されたのかがわからない。

ある市議会関係者は、この間の経緯を次のように振り返る。
「何もないところに突如出てきた話なんです。要するに、市が公民連携で何か事業をやりたいと思っていたところに、今までいろんなところで公民連携を手掛けてきた良品計画さんが出てきた。だが同社は図書館を手掛けるのは初めてです。可児市でやれたらやりたいですという話に、市長が乗っかったんだと思います。老朽化した図書館の本館をどうするかという本筋の話は、最初から出てきませんでした。市民から図書館が欲しいという要望が出ていたのならわかりますが、そうではない。なんでこんな話が出てきたのか、という感じです。それでも『悪いものではない』ということで賛成した人が多かったように思います。本来なら『今後、図書館をどうするか』という検討をしっかりやったうえで、補正予算ではなく本予算にあげるべき事案だったと思います」
別の市議会関係者もいう。
「市長が早急に承認してほしいということで議会に提案してきたので、十分な説明もなく、即決を求めてきました。あまりにも急だったので説明が執行部のほうからありましたが、詳しいことは何も聞いても、これから決めることだとして、押し切られてしまいました。可児市の都合よりも、事業者の都合が優先されたのでは。近隣の無印良品店舗を視察してみましたところ、MUJI BOOKSという書籍の販売コーナーがありましたが、売上はあまり期待できない様子でした。不良在庫といったら言い方が失礼だけど、ただ本を飾りにして、客の目を引くたためのディスプレイの一部になっている印象です。可児市では、この部分に図書館を誘致して、行政に肩代わりさせようとしたのではないでしょうか」
生活雑貨や家具、食品などの商品を開発から手掛けて、シンプルで品質の良い商品を販売することで知られている無印良品。現在、国内約500店舗の1割にあたる54店舗に「MUJI BOOKS」というセレクト型の書籍販売コーナーを設置していると同社は発表している。良品計画としては、売り場に来店者の目を引く少し変わった本を並べることで集客をはかる目的があるとみられているが、この集客装置の部分を自治体運営の図書館に肩代わりさせれば自社の負担は軽減される。
新図書館の施設の整備費用はすべて自治体持ちで総額1億7600万円。
「図書館に使用される棚などは、無印良品さんの空間デザイン部が設計した専用の什器を使うというのが条件でしたので、高コストになります。その金額が妥当なのかというと、クエスチョンマークがつきます。行政はビジネスの素人なので民間事業者のいいなりになりがち。その条件もおかしいのではと感じました」(同)
新図書館の2年目以降のランニングコストは年間5000万円近くかかる。
「最大の問題は、本館を含めた図書館全体の運営をどうするのかという議論をすっ飛ばしていることです。本館は老朽化して狭く、駐車場も少ないので利用しづらいのが現状。本館を閉めて何年か後にどこか広いところに本館をつくる間、間借りのような感じで分館がヨシヅヤさんに入るならいいですが、 本館の問題は何も解決されないまま。現在すでに2つある分館を、もうひとつ増やしてどうするのか。新図書館の利用者は多いと行政サイドは予想していますが、1~2年目は物珍しさで来館者が多いかもしれないですが、その後は減る一方でしょう。にもかかわらず、良品計画さんの希望で15年の賃貸契約です。この点は議会でも疑問が出ていました」(同)