可児市「委託契約は締結しておりません」
なぜ、このような新図書館の設置が簡単に議会で承認されたのか。別の自治体関係者は、市教育委員会の力が弱いことをあげる。
「もともと図書館は教育委員会が管轄する施設で、教育委員会の承認がなければ、市長が好き勝手にすることはできません。教育委員会では、市民の知る権利や生涯学習を支援するという観点で検討されますので、商業施設内にあったほうが便利だからという理由だけで分館の設置はなされません。教育委員会が本来の役割を果たしていれば、一企業の提案がこんなに簡単に通ることはなかったでしょう」
可児市は12年度から図書館の管轄を市長部局に移管していた。つまり、教育委員会の承認なしに市長権限だけで、新しい図書館を設置するような重要案件も議会にはかれるのだ。「にぎわい創出」と称して図書館や博物館、美術館を地域振興や観光の目玉にするために、これらの管轄を教育委員会から市長部局に移管をする自治体が多いが、可児市はその流れを10年以上前から先取りしていた。
庁内の審査会で正式決定した前日の5月9日、市の担当者は教育委員会管轄の図書館協議会に無印店舗内の新分館設置について意見を聞いているが、以下のとおり開催時間はわずか30分。

「20時まで営業していると仕事帰りに立ち寄りやすく利便性が向上する」「若い人が買い物のついでに立ち寄れる」など好意的な意見がいくつか出たが、良品計画が担当する選書や独自分類、配架についての意見は出なかった。9人の委員の顔触れをみると、主に学校関係者とPTA関係者で構成されており、図書館の専門家は1名のみ。それも学校司書会代表のため、公共図書館の専門家は1人も入っていない。
1月6日に良品計画から提案があった時点で、市長と良品計画の間で話がついていた可能性も考えられるが、そのようなことが法的に許されるのだろうか。総務省によれば、地方公共団体が競争の方法によらないで任意の特定の者を選定して、その者と契約を締結する随意契約は、地方自治法施行行令(第167条の2)によって、予定価格が少額だったり、緊急の必要により競争入札に付することができない場合など、特別な事情がある場合のみ可能とされている。しかし、今回の新図書館の事業は少額ではなく、緊急性は乏しい。
可児市の市長部局に随意契約が可能とした法的根拠を問い合わせたところ、以下の回答が返ってきた。
「本市は、市から良品計画様に業務を発注する『委託契約』は締結しておりません。良品計画様が実施する図書館整備事業に対して、市が『整備費負担金』を支払うことになっています」
委託契約だと法に抵触する恐れがあるため、あえて「整備費負担金」方式にしたのではないかとも考えられる。確かに運営部分に関して良品計画に委託せずに市の直営とするのであれば、地方自治法施行行令(第167条の2)上はセーフとなる。
可児市が委託契約にしなかった理由は、市の条例で予定価格1億5000万円以上の工事又は製造の請負については議会の承認が必要と定められているからではないか(可児市議会に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例)。6月の議会では、提出された補正予算で総額2億8000万円の分館設置にかかる初年度の費用は承認されたが、委託契約の場合、契約内容についても、それとは別に議会承認が必要になってくる。そうすると、無印良品の11月のオープンに間に合わないため、整備費負担金方式にしたのではないか。
この点についても、可児市の担当部署に問い合わせてみたところ、以下のような回答だった。
「本件は委託契約ではありませんので、補正予算案の議決をもって議会からの承認を得てお ります」
だが、可児市は空間設計など新図書館の整備をまるごと良品計画に依頼しているため、単なる整備だけとはいえない。実質的には委託契約ではないかと指摘される可能性がある。CCCが受託しているツタヤ図書館の最近の事例では、可児市と同様の開業準備にかかわる業務については委託契約が締結されている。可児市は、もし住民訴訟を起こされれば違法と認定される可能性も考えられる危ない橋を渡っているように思えて仕方ない。

今回の契約では、運営は市が担い、良品生活が行うのは空間デザインや選書に限られるため、委託契約ではない「整備費負担金方式」とされているが、上記の見積書をみると、開業準備業務の委託契約に等しいと指摘されかねない内容になっている