アイス市場では競合する森永乳業と森永製菓

「森永のアイス」といえば、森永乳業の「ピノ」「パルム」、森永製菓の「チョコモナカジャンボ」「バニラモナカジャンボ」が有名だ。兄弟会社だが、アイスクリームでは競合する。

一般消費者にはわかりにくい、両社の成り立ちを簡単に紹介しよう。事業としては森永製菓が先で、創業者・森永太一郎氏が1899年に「森永西洋菓子製造所」を設立。森永乳業の前身は乳製品の製造を主な事業目的とする「日本煉乳株式会社」で1917年創業。その後、森永製菓との合併分離を経過して、1949年に森永乳業として設立された。

実は、売上高では乳業が製菓の約3倍ある。商品開発の特徴はどうか。

「社名が象徴していますが、森永製菓はお菓子を祖業とするメーカーなので、消費者の方を楽しませるような仕掛けが得意です。一方の森永乳業は酪農家との付き合いが深く、乳(にゅう)へのこだわり、ぬくもりといった視点を持っています」(関係者)

森永乳業のアイスには前述の2ブランド以外にも「モウ(MOW)」や「森永れん乳シリーズ」など、乳へのこだわりを感じさせる商品がある。

急成長したアイス「パルム」の差別化戦略…安納芋やモンブランが売り切れ続出
(画像=森永乳業の本社が入るビル、『Business Journal』より引用)

パルムが数字を伸ばした3つの要因

さて、歴史の長いロングセラーブランドが多いアイス業界で、パルムが成長した理由を3つの視点で考えてみたい。

(1)「子どものおやつ→大人のスイーツ」の波に乗った
(2)「ピノ」とのすみわけ
(3)ハーゲンダッツ未満のごほうび需要

(1)では、パルムの開発時に少し紹介したように、かつてアイスクリームは「子どものおやつ」の需要が中心だった。一定以上の年齢なら、小学校の近くにあった駄菓子屋さんで買った思い出もお持ちだろう。それがメーカーのマーケティングと商品開発、流通の変化と販売戦略、生産者のこだわりなどの複合要因で「大人のスイーツ」に変わっていった。

(2)は、同社の先輩ブランド「ピノ」とのすみわけだ。カップアイスが主流の時代に誕生した一口アイスのピノは、現在も人気。近年はマルチパックのパッケージを2つ使用した「ピノガチャ」など、消費者を楽しませる仕掛けも行う。パルムは味の深め方などで勝負する。

(3)は、パルムの持つ立ち位置だ。ブランドとして「デイリープレミアム」を掲げる。筆者はパルムを“ハーゲンダッツ未満のごほうび”と位置づけてきた。通常のアイスよりは高いがハーゲンダッツに比べれば安い。以前の消費者取材では、「明日は休日という夜にパルムを食べるのが、1週間働いた自分へのごほうびです」(40代女性)という声も聞いた。