目次
酒蔵訪問その2:原酒の蔵・片山酒造(日光市瀬川)
酒造訪問その3:どうくつ酒蔵・島崎酒造(那須烏山市)

酒蔵訪問その2:原酒の蔵・片山酒造(日光市瀬川)

日光市瀬川にある片山酒造。今回訪れた酒蔵の中では一番小さな蔵です。社長(杜氏)含め、3人で日本酒を造っておられます。明治13年創業。約140年の歴史ある酒蔵です。

日光連山から流れる大谷川の伏流水を使い、職人の手により丁寧に、至高の日本酒を醸しています。

片山酒造の特徴は、佐瀬式という搾り機を使い、原酒をメインに造っているところです。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

看板にも大きく「原酒」と記してあります。主力銘柄は「柏盛(かしわざかり)」

初代が新潟県柏崎から良水を求めて旅立ち、今市まで来てようやく納得のいく水にたどりついたところからこの場所での酒造りをすることを決め、銘柄を柏盛にしたそうです。

片山酒造は、日光三大霊水のひとつ「酒の泉」を元水とする大谷川の伏流水「千両水」を使用しています。千両水は地下16mから湧き出す口当たりよい軟水で、まろやかな味わいと香りを生み出しています。

原酒とは?

原酒の特徴は、濃醇で個性的、深い旨味と力強い飲み口であること。
多くの日本酒は、もろみを搾ったあとに水を加えてアルコール度数を20度から14~15度に下げます。それに対し、原酒は一切加水せず、アルコール度数を落としていない。日本酒以外の醸造酒のほとんどが加水していないことからも、原酒こそが日本酒本来の味わいともいえます。

何も加えず何の調整も行わない原酒は、素材の持ち味と醸す技が、清酒よりはるかに鮮明に反映されます。
日本酒を原酒のままで出荷する蔵元は、酒米、麹、仕込み水を徹底的に吟味し、醸す技を追求し、個性あふれる原酒を生み出しています。

佐瀬式圧搾機とは?

佐瀬式とは槽(ふね)と呼ばれる伝統的な「佐瀬式圧搾機」で搾る方法です。

「もろみ」をひとつひとつ人の手で袋詰めし、丹念に積み重ねて、上からゆっくりと圧をかけてお酒を搾ります。雑味が出ないようにするため、1回目はもろみ自身の重さで、その後徐々に圧力を加え、3~4日間かけてゆっくりと搾っていきます。1回では少量しか搾り出せないため、この作業を何度も何度も繰り返していきます。非常に手間ひまがかかるので、この製法を採用している酒蔵は栃木県内では1割にも満たないほどです。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

こちらが佐瀬式の搾り機です。片山酒造では明治13年の創業以来、佐瀬式の圧搾機でお酒を造り続けています。

大手酒蔵を始め、現在多くの酒蔵は「薮田式」と呼ばれる圧搾機を使って絞っています。薮田式圧搾機はコストや時間を短縮できるというメリットがありますが、機械で一気に圧搾してしまうため、雑味が出て、味わいを損ねてしまう恐れがあります。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)
【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

片山酒造で試飲した5本がこちらです(すべて原酒)。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

左から3本は「素顔」という銘柄で、醪に圧力をかける前に自然に染み出た希少な部分だけを、濾過も熱処理もせず、瓶詰めした完全な生原酒です。

それぞれのお酒の印象を記します。

  • 原酒 素顔 大吟醸:最上級の酒米兵庫県産特A「山田錦」を使用。主張しすぎない上品な香り。青りんご、洋梨風の香り
  • 原酒 素顔 純米吟醸:酒米「夢ささら」を使用。フルーティー系。青りんご、洋梨風の香り
  • 原酒 素顔 本醸造:酒米「五百万石」を使用。すっきりした飲み口。バナナ風の香り
  • 原酒 ほほえみ 大吟醸:火入れしてあり、しっかりしたバランスを保っている大吟醸酒
  • 原酒:火入れしている。日本酒らしいどっしりしたコクと重みのある味。日本酒党が好みそうな、これぞ「原酒」という存在感あり

私は、原酒と聞くと濃くて、パンチの効いた、いかにも日本酒らしい酒、というイメージを持っていました。

確かにアルコール度数は17~19度(一般的な日本酒は14~15度)で高いのですが、想像よりも軽めですっきりして飲みやすかったです。

その感想を伝えると「重くならないように造っていますから」と片山社長(杜氏)。

佐瀬式搾りにより、美味しい部分のみが抽出されているからこの清らかですっきりした雑味のない日本酒を生み出すことができるのでしょう。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

片山酒造で造っているのはほぼ原酒です。

街なかにある酒蔵ですが、お庭からウグイスの鳴き声が聞こえてきました。キジが現れることもあるのだとか。それだけ自然豊かな土地ということなのでしょう。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

杜氏でもある片山酒造7代目社長の片山 智之さん。

朴訥で言葉少なめな方ですが、逆により一層、酒造りに対する熱い思いとこだわりを感じました。

本物のお酒を造っておられる、と感じました。

酒造訪問その3:どうくつ酒蔵・島崎酒造(那須烏山市)

那須烏山市にある島崎酒造。

創業は嘉永二年(1849年)で170年の歴史を刻む酒蔵。初代島崎彦兵衛が大の相撲好きであったことから酒の名前を「東力士」にしたのだとか。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

島崎酒造の特徴をひとことで言うと「洞窟で酒を貯蔵している」という点です。

島崎酒造のどうくつ酒蔵とは

第二次世界大戦末期に戦車を製造するために建造された地下工場跡地。それが島崎酒造のどうくつ酒蔵です。

年間平均気温は10度前後。日光がまったく差し込まない漆黒の闇は"熟成酒"を造り出すには、これ以上ない最高の環境です。総延長600mの空間には、現在も約10万本の"酒"が眠っています。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

どうくつ酒蔵は、お店から車で5分ほどの場所にある山の中にあります。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

駐車場からどうくつ酒蔵の入り口に歩いていきます。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

こちらがどうくつ酒蔵の入り口です。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

洞窟の中に入りました。想像していたより洞窟内部は広く開放的な空間です。

この洞窟は第二次大戦末期に、戦車を製造する為に造られましたが終戦となったため、実際には一度も戦車は製造されなかったそうです。

手掘りで約1年半かけて、延べ3~400人の人手でこの洞窟は掘られたそうです。石は凝灰質砂岩で比較的柔らかい材質だそうですが、アーチ型なので頑丈な造りになっているそうです。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

洞窟は100mX60mの間に碁盤の目のように通路が張り巡らされています。甲子園球場と比較されているように、思ったより大きな洞窟でした。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

写真のように日本酒が貯蔵されています。

洞窟の内部は1年を通じて平均10度。季節によってプラスマイナス5度の温度差ができるそうで、その5度の温度さが日本酒造りにとても良い影響を与えるそうです。味わい深いお酒ができるのです。

洞窟の中は風が通る造りになっており、空気が入れ替わっています。洞窟貯蔵により日本酒は瓶の中で対流して攪拌され、より良く熟成が進むそうです。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

最近の人気は、将来の記念日を祝うメモリアル貯蔵酒です。例えば、子どもが生まれた時、その年にできたお酒を貯蔵し、20年後成人した時に家族で開けてお祝いするというものです。それぞれのお酒には写真やメッセージなどが添えられています。

まるでタイムカプセルのようです。単なるお酒という商品ではなく、時間の経過を刻み、家族の絆を深め、後に喜びあうツールとして深い価値を生んでいるんですね。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

洞窟の中にはショップもあり、ここでお酒を買うこともできます。

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

人数にもよりますが、場合によっては洞窟内で試飲を行うこともできます。(要予約)

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

島崎酒造の島崎 健一社長(右)と土橋 雄介店長(左)。

島崎社長の言葉です。「うちは酒を搾って造って、それからもう一度酒造り(熟成)が始まるんです。」

【栃木県】4つのこだわり名酒蔵を巡る呑んべえ旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

お店に戻って試飲させていただきました。

左から、

  • 熟露枯(うろこ)三年古酒:まろやかでフレッシュな舌触り。バニラのような香りも
  • 熟露枯(うろこ)十年古酒:熟成が更に進みウイスキーのような複雑な深み、まろみ。カカオのような香り。かば焼きやイタリアンにも合う
  • 熟露枯 山廃仕込純米吟醸:キリっと辛口。ふくよかでバランスが良いので食中酒にぴったり。塩味の焼き鳥、天ぷらに合う
  • 熟露枯 山廃仕込純米原酒:山廃らしい複雑で深みのあるしっかりした味。冷やも良いが燗酒も〇。タレ味の焼き鳥、豚角煮、中華料理、鍋物に合う
  • 旨口 熟露枯 普通酒:甘みがあり、まろやかで、家庭食事全般に合う晩酌向きの酒

島崎社長曰く「チーズはワインに合うとよく言われますが、日本酒にも合います。ワインはチーズを洗い流すのに対し、日本酒は旨みに旨みが乗るという感覚で双方の味がワンランク上がるんです。」

ちなみに熟露枯(うろこ)の名前の由来を伺ったところ、島崎酒造の屋号が「うろこ屋」でそこに熟露枯という字を当てたのだそうです。

洞窟内での熟成にぴったりのネーミングですね。