■ フォローしてしまった中の人、フォローしなかった中の人
今回編集部では、この偽アカウントをフォローしていた複数の企業公式アカウントの中の人、そして逆に「怪しんで」フォローしなかった中の人まで幅広く取材を行いました。
なお、取材協力にあたっては、匿名が条件となっています。
▼フォローしてしまった中の人たち
フォローしてしまった企業アカウントの中から、今回取材に協力してくれたのは4社・4名の現役中の人です。いずれも数年レベルで中の人を担当している、いわば企業公式アカウント運用を知り尽くした「中の人」たち。
話を聞くと、まずは「公式アカウントだと思いフォローしてしまい、それによって一般の方も勘違いされたとしたら本当に申し訳ないという罪悪感はあります」と、誤認を招いてしまう行動を取ってしまったことを全員が深く反省していました。
経緯としてはやはり「別の企業がやり取りしているのを見て、Seriaアカウントの存在を知り、そこから【公式】と表記されていること、商品情報を投稿していく予定がすでに決まっていること、ロゴやヘッダーの画像、アカウント名に『PR』と入っていたこと、全国展開している企業という安心感から公式だと思ってしまいフォローしました」とのこと。
違和感を覚え始めたのはその夜から次の日だったといいます。一度投稿したポストを削除し、それに対して弁解をおこなうなど、企業公式らしからぬ言動が見られたからだそうです。しかしそれでもかなりのスピードでフォロワー数が伸びていたので、「まぁ大丈夫だろう」と思ってしまったことを、全員が全員後悔していました。
そして「信じてしまった企業アカウント中の人」全てが共通して語ったのは、「他の企業さんがフォローしているのを見たから」「大手さんがフォローしていたから」というフォローに至った理由。「仲の良い公式さんがフォローしてるから大丈夫だろう」という考えが働いてしまい、普段ならば行うはずの本物確認(公式サイトのSNSアカウント紹介を確認するなど)を怠ってしまったことでした。
実はこうした事態は、我らメディアの世界でもかつて起きています。おたくま経済新聞もひっかかってしまった中の一つです。さかのぼること2015年、大手食品メーカー公式を名乗るアカウントが注目される出来事がありました。
当時その件について、大手メディアが報道。追従するように大小問わず報じる流れとなり、おたくま経済新聞では一足遅く記事を公開。
すると記事公開からわずか5分後に、普段ならば行う「直接のアカウント確認」を怠っていたことに気づいたのです。他社の記事で「公式アカウント」と紹介されていたことで、自社確認を怠っていました。すぐさま大手食品メーカーに問い合わせたところ、答えは「偽者」。
記事公開わずか1時間ほどで訂正・謝罪を行い、それによって先行していた他社もようやく事態を把握。ほぼ全社が訂正するという出来事がありました。
この時の教訓から学んだのは「確認は必ず自社(自分)で直接行うこと」これに限ると、身にしみた出来事でした。
▼フォローしなかった中の人
次に、今回「フォローしなかった中の人」にも、何を感じてフォローしなかったか聞いてみました。取材に応じてくださったのは1社・1名の中の人です。
「偽Seria公式」の存在には、9月11日のフォロワー数が爆増しはじめたタイミングで気がついたといいます。
最初に不審を抱いたのは文章。「文章を見て、プロの代理店やライター業、広報担当ではないだろうな……」と感じていたそうです。そして強い不審を抱くきっかけになったのがYouTubeの開設。ここで勘がはたらき、観察側に徹していたそうです。結果としてその判断は正しかったことになります。
加えて「知っている他の企業公式がフォローしていたことで、結果X全体の警戒心が緩んでしまったのだと思います」「今後の話題性の拡がり、経営リスクの視点が重要視されたときに、SNSアカウントでの“企業公式”同士の馴れ合いが抑制される向きも出てくるのではないか」とも語っていました。
普段であれば互いの企業を盛り上げる「馴れ合い」ですが、今回は悪い方向に利用されてしまいました。「偽Seria公式」中の人は、悪用する意図はなかったにせよ、もしもこのテクニックが本当に悪い人に利用されてしまったら……。被害は計り知れません。
■ 偽アカウント「中の人」に直撃 正体はSeriaの店長?
騙された企業、騙されなかった企業と複数取材を進めるのと同時に、偽アカウント中の人に対しても、DMを通じて根気強く連絡をとっていました。
送ったのは「中の人はいったい何者なのか?」「なぜアカウントを開設しようとおもったのか」の2点。

すると数日後の9月16日17時08分に最初の回答が届きました。時系列は、偽Seria公式アカウントが17時に、「アカウントを18時に削除する」と投稿した直後です。
中の人からのDMに書かれていたのは「私はSeriaの店長でして」の文言。本人の告白によるとどうやら一店舗の店長が、Seriaの商品をもっと知って欲しいという一心で、アカウントの開設に至ったそうです。
続けて「公式と名乗ってしまったことでたくさんの企業やその他の方にご迷惑をお掛けしました」と謝罪しつつも、「円満にこのアカウントを削除させて頂くため、記事にはしないでください」という保身の一言。続けて「この話は本部からの連絡です」という圧力とも取れる一言も書かれていました。