外貨預金では金利が年1%を超える商品も珍しくない。メガバンクの円定期預金の金利は税引前で年0.002%(2020年10月時点)であることを考えると、定期預金よりも金利が高い外貨預金は魅力的にうつるかもしれない。外貨預金は「預金」という安心感があるかもしれないが、注意しなければならないリスクもある。
目次
1.外貨預金の3つのリスク
2.外国為替が変動する8つの原因とは
3.外貨預金で取引される主な通貨とは?特徴とその変動要因
4.外貨預金のリスクを軽減する4つの対策
5.資産の一部を外貨預金で持つことはリスク分散にもなる
1.外貨預金の3つのリスクとは
外貨預金とは日本以外の国の通貨で行う預金の総称だ。円預金にない高い利率が魅力だが、主に以下3つのリスクがある。
リスク1……「為替変動」による元本割れリスク
日本円と外貨を交換するときの交換比率を「外国為替相場(外国為替レート)」という。「今日の外国為替市場の円相場は1ドル105円」などと、ニュースなどで耳にしたことがあるだろう。為替相場は市場での各通貨の需要と供給のバランスによって決まり、常に変化している。
たとえば1ドル105円のときに1万ドルの外貨預金をするには、105万円の日本円が必要になる。その後、円相場が「円高」方向に動き、1ドル100円になったとする。1万ドルの外貨預金を日本円に戻すと、元の105万円は100万円に目減りしてしまう。これが「為替変動(円高)」による元本割れのリスクだ。
逆に円相場が「円安」方向に動き、1ドル110円になれば、元の105万円が110万円に増える可能性もある。
ただし外貨預金をした直後には円換算で元本割れの状態になっている。日本円と外貨の交換に「為替コスト」がかかるためだ。
リスク2……「為替コスト」による元本割れリスク
すでに外貨を持っている場合を除き、外貨預金をするには日本円を外貨に交換しなければならない。これには必ず為替コストがかかる。外貨預金を日本円で受け取るときも、同様に為替コストがかかる。
せっかく金利を受け取ったとしても、為替コストが上回れば元本割れしてしまう。
リスク3……預金保険制度の対象にならない(金融機関の破綻リスク)
預金保険制度とは、金融機関が破綻した場合でも元本1,000万円までとその利息、利息のつかない当座預金などは預金額の全額が預金保険で保護される仕組みだ。
しかし外貨預金は預金保険制度の対象外になっている。もしも預入先の金融機関が破綻した場合、預金が戻ってこないおそれがある。破綻した金融機関に財産が残っていれば返還される可能性があるが、全額戻る保証はない。
2.外国為替が変動する8つの要因
外貨預金の為替変動による元本割れリスクを回避するためにも、常に為替変動にアンテナを張り、外貨預金を行う通貨を判断したほうがよい。なぜ外国為替(以下、為替)は変動するのか。主な要因は以下8通りだ。
(1)金利差
一般的に相対的に金利の高い国の通貨は買われやすく、金利の低い国の通貨は売られやすい傾向にある。
(2)物価変動(インフレ率)
物価が上がると相対的にお金(通貨)の価値が下がる。これにより物価上昇率(インフレ率)の高い国の通貨は相対的に安くなりやすい。
金利とインフレ率は密接に関係しており、一般的に金利の高い国はインフレ率も高い傾向がある。高金利の通貨は、インフレによってその通貨の価値が目減りするリスクの裏返しといえる。外貨預金では特に注意すべきポイントだ。
(3)貿易収支・国際収支
一般的に輸出が輸入を上回る貿易黒字の状態になると、その国の通貨が買われやすい。日本であれば円高になる(逆に貿易赤字の状態では、円安になりやすい)。
これは外貨で支払われた輸出代金を自国通貨に戻すため、外貨を売って自国通貨を買う需要が生じることによる。
(4)景気・株価
景気がよく、株価が上昇している国には資金が流入しやすく、その国の通貨高の要因になる。逆に景気が悪化し、株価が下落している国からは資金が流出しやすい。こちらは通貨安の要因になる。
(5)中央銀行による為替介入
中央銀行の為替介入は、為替を短時間で大きく変動させる要因だ。「為替介入」とは、為替相場の安定を図るため中央銀行が外国為替市場で通貨を売買することをいう。自国通貨に急激な変動が起きた場合などに実施されることがある。
(6)経済指標の発表
雇用統計や貿易統計、物価指数などの経済指標が発表されるタイミングには、為替が動きやすい。特に事前の予想との乖離が大きいケースでは、為替が大きく変動することもあり得る。
(7)要人発言
政府要人や通貨当局者(日本で言えば日銀総裁や財務大臣)の発言なども、為替に影響する要素だ。
(8)戦争や紛争、テロ
戦争や紛争、テロなどが起きると、経済活動への悪影響が懸念され、為替に影響を及ぼすことがある。規模が大きく世界経済への影響が懸念されるケースでは、米ドルや日本円、スイスフランなど、いわゆる「安全通貨(リスクオフ通貨)」が買われる傾向がある。
金利や物価、貿易収支は中長期的な為替変動要因であり、為替の大きな方向性(トレンド)を左右する。為替介入や経済指標、政治的要素、戦争・紛争などは、短期的な為替変動要因であり、急激な為替変動をもたらす可能性がある。
ただしその多くは一過性のもので、時間の経過とともに中長期的な為替の方向(トレンド)に回帰する傾向がある。
3.外貨預金で取引される主な通貨とは?特徴とその変動要因
外貨預金で取引される代表的な通貨とその特徴を紹介する。
外貨「米ドル(USD)」……最大の取引量を誇る基軸通貨
米ドル(USD)はアメリカの通貨であると同時に、国際的な貿易や金融取引の決済に利用される基軸通貨である。
世界の為替取引量全体の約44%を占め(国際決済銀行・2019年調査より算出)、流動性が高く、為替変動は他の通貨に比べ小さい。情勢が不安定になると買われやすい安全通貨でもある。
アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が実施する金融政策は、米ドルの方向性を左右する重要なポイントになる。
外貨「ユーロ(EUR)」……米ドルに次ぐ取引量を誇るEUの統一通貨
ユーロ(EUR)はEU(ヨーロッパ連合)の統一通貨であり、2020年1月現在EU参加28ヵ国中19ヵ国が導入している。世界の為替取引量の約16%を占め(国際決済銀行・2019年調査より算出)、米ドルとユーロを交換する為替取引である「ユーロ/ドル(EUR/USD)」 は、最も取引量の多い通貨ペアだ。
財政力や経済成長率などに大きな違いのある複数の国が利用する通貨であるため、ほかの通貨に比べ金融政策を運営しにくいとされる。2010年のギリシャ債務危機のように、財政力の弱い国から生じた問題がユーロ全体に波及し、通貨の下落につながるという、ほかの通貨にはないリスクもある。
EUの中央銀行であるECB(欧州中央銀行)は、2020年8月時点で「ゼロ金利政策」実施しており、外貨預金金利は円預金金利と変わらない水準で推移している。
外貨「英ボンド(GBP)」……取引量は日本円に次ぐ4位で値動きも荒い
英ポンド(GBP)はイギリスの通貨であり、第二次世界大戦前までは世界の基軸通貨であった。現在でも為替取引量は日本円に次ぐ世界4位の国際通貨だ。
米ドルやユーロに比べ流通量が少ないため投機対象になりやすく、短期的な値動きは荒い傾向がある。
外貨「豪ドル(AUD)」……資源価格や中国の影響を受けやすい
豪ドル(オーストラリアドル・AUD)はオーストラリアの通貨だ。オーストラリアは豊富な鉱物資源や農産物の輸出が貿易や経済の柱なので、原油価格や資源価格が上がるとオーストラリアドルの上昇につながりやすい。また最大の貿易相手国である中国経済の動向も大きく影響する。
オーストラリア経済は1991年から29年間にわたり世界最長の景気拡大を続けてきたが、今回のコロナ禍の影響によりその記録は途絶え、景気後退局面に入った。2008年に7.25%であった政策金利は、2020年8月時点で0.25%まで低下しており、かつて高金利通貨の代表であったオーストラリアドルの外貨預金金利は大きく低下している。
オーストラリアとニュージーランドは地理的、経済的なつながりが強く、オーストラリアドルとニュージーランドドル(NZD)の為替連動性は極めて高い。
外貨「カナダドル(CAD)」……米ドルや原油価格との連動性が高い通貨
カナダドル(CAD)はカナダの通貨であり、隣接するアメリカとの経済的なつながりが強いことから、値動きは米ドルとの連動性が高い。
カナダは石油や天然ガス、金属類などの鉱物資源が豊富な資源国であり、カナダドルは原油価格の影響を受けやすい。原油価格が上がる局面ではカナダドルは上昇し、原油価格が下がる局面ではカナダドルは下落しやすい。
外貨「スイスフラン(CHF)」……不安定な時代に強い代表的な安全通貨
スイスフラン(CHF)は永世中立国スイスの通貨で、代表的な安全通貨だ。リーマンショック以降、通貨としての強さが際立っている。その背景には堅調な貿易収支がある。2019年には過去最大の貿易黒字を記録し、黒字額は10年でほぼ倍増している。
スイスの金利水準はもともと低く、2020年8月現在の政策金利はマイナス0.75%になっている。金利面ではほかの通貨に見劣りするものの、昨今は世界的に低金利となるなかでその差は縮まっている。これも相対的にスイスフランの価値を高める要因といえる。
4.外貨預金のリスクを軽減する4つの対策
外貨預金のリスクはゼロにはできない。しかし次のような4つの対策によって、リスクの軽減を図れる。
(1)為替コストの安い金融機関を利用する
為替コストは金融機関によって異なるため、為替コストの安い金融機関を利用することが元本割れリスクの軽減につながる。ここでは日本円と代表的な外貨、米ドルとユーロを交換するときの為替コストが割安な金融機関を紹介する。
米ドル/円為替手数料・金利
銀行名 | 為替手数料 (1米ドルあたり・片道) |
(参考) 金利(年率・税引前) |
||
預入時 円→米ドル |
払戻時 米ドル→円 |
普通 | 1年定期 | |
GMOあおぞらネット銀行 | 2銭 | 2銭 | 0.200% | - |
住信SBIネット銀行 | 4銭 | 4銭 | 0.001% | 0.200% |
ジャパンネット銀行 | 5銭 3銭※1 |
5銭 | 0.001% | 0.030% |
ソニー銀行 | 4~15銭 | 4~15銭 | 0.001% | 0.150% |
新生銀行 | 7~15銭 | 7~15銭 | 0.001% | 0.300~ 0.350% |
※1 積立為替手数料
日本円と米ドルの為替手数料が最も安いのはGMOあおぞらネット銀行で、1米ドルあたり2銭(0.02円)だ。金融機関や手続き方法によっては1円かかる場合もあるので、差は大きい。ソニー銀行や新生銀行のように、商品やサービスの利用状況によって為替手数料が優遇されケースもある。
金融機関や預入期間によって外貨預金の金利は異なるため、為替手数料と金利の両方を比較するようにしておきたい。
ユーロ/円為替手数料・金利
銀行名 | 為替手数料 (1ユーロあたり・片道) |
(参考) 金利(年率・税引前) |
||
預入時 円→ユーロ |
払戻時 ユーロ→円 |
普通 | 1年定期 | |
GMOあおぞらネット銀行 | 10銭 | 10銭 | 0.001% | - |
住信SBIネット銀行 | 13銭 | 13銭 | 0.001% | 0.001% |
ジャパンネット銀行 | 14銭 12銭※1 |
14銭 | 0.001% | 0.001% |
ソニー銀行 | 8~15銭 | 8~15銭 | 0.001% | 0.001% |
新生銀行 | 20~40銭 | 20~40銭 | 0.001% | 0.001~ 0.003% |
※1 積立為替手数料
日本円とユーロの為替手数料が最も安いのはこちらもGMOあおぞらネット銀行で、1ユーロあたり10銭(0.1円)である。ソニー銀行の為替手数料は、優遇サービスの適用によって8銭まで下がる可能性があり、この場合はGMOあおぞらネット銀行を下回る。
外貨預金の金利は各行0.001%で横並びの状態だが、新生銀行では金利優遇サービスにより、条件を満たせば最大で0.003%まで上がる可能性がある。
(2)通貨・購入時期を分散させる
為替変動リスクを軽減するには、投資する通貨や時期を分散させるのもひとつの対策だ。
保有する通貨を分散することで、個別通貨に起因するリスクが資産に与える影響を軽減できる。またタイミングをずらして定期的に一定額ずつ投資すれば、購入価格が平均化されリスク軽減につながる。円高になると円換算での外貨預金の評価額は下がってしまう。逆にいえば新たに安く外貨を購入できるチャンスでもある。
これから外貨預金を始めようという人は、外貨預金の積立サービスを利用してもよいだろう。たとえば東京スター銀行では積立購入の場合は預入時の為替手数料がかからないので、おすすめである。
(3)外貨のまま保有・利用する
外貨預金の為替手数料は運用において確実なマイナスである。運用効率を高めるには、長期保有を基本として、外貨と日本円を頻繁に交換することは避けたい。
一度外貨に変えた資金は外貨のまま保有するのもひとつの手である。海外での支払いや外国株の購入資金として、外貨のまま使えば払戻時の為替手数料がかからない。すべて外貨のまま使うのは難しいかもしれないが、外貨として使う選択肢は持っておきたい。
(4)預入先を複数の金融機関に分散する
金融機関の破綻リスクは、複数の金融機関に分散して預け入れることで軽減できる。預入額が大きい場合には、金融機関を分けることも検討するとよいだろう。
5.資産の一部を外貨預金で持つことはリスク分散にもなる
外貨にはリスクもあるが、逆に考えれば日本円だけで資産運用をすることもリスクである。日本に住んでいれば資産の多くは日本円に偏る。これは日本円だけに集中投資しているのと同じだ。資産額がある程度大きくなればリスクになるため、資産の一部を外貨で保有するとリスク分散につながる。
外貨を持つには外国株や外国債権、為替ヘッジのない投資信託などの金融商品を保有する方法もある。今後資産を増やしたい場合には、これらへの投資も検討してみるとよいだろう。
為替の変動を予想するのはプロでも難しい。初心者であれば、為替の変動を気にしなくてよい外貨預金の積立サービスなどを利用すると良いだろう。銀行ですぐに始められる外貨預金は投資初心者にもおすすめだが、くれぐれもリスクは十分に理解しておこう。
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