英語版KAORIUMもリリース、海外展開へ

――今後の方針をお聞かせください。

栗栖:そうですね。今は日本酒やフレグランスがメインですが、ワイン向けのものも開発中です。

香りや風味があるものだったら基本的に何でも取り扱いができるので、ワインやウイスキー、焼酎、お茶、チョコレート、オリーブオイル…など他の香りある嗜好品に対してもカバー領域を広げていきたいと考えています。

もうひとつ今後に向けた軸として、地理的リージョンという考え方があります。

たとえば日本酒って今、海外向けの輸出がものすごく増えているんです。海外では日本の価格の3〜4倍ぐらいの金額で日本酒が売られていたりすることもあります。

そういった海外消費への供給ニーズが高まりつつあるところへ向けて、我々は今このKAORIUMの多言語版を作っておりまして、今年の1月には英語版を出しています。

今後は他の言語でも使えるようなKAORIUMも作っていくと同時に、ここで集まってくるデータがまた一つの重要な武器になってくるだろうなとは思っています。

――香りを選べる楽しさが世界に広がっていきそうですね。

栗栖:そうですね。日本酒だけではなく、フレグランスの香りに関しても、昨年7月に米国・マイアミで展示会に出して実際にネイティブの方々が英語版のこのKAORIUMをどう評価するかを1回試してみたんですけれども、すごく高い評価をいただいたんです。

我々のとこにいらした他のブースの方が、「あれ面白かったよ」ってそのブースに戻って周りの同僚にも伝えて、その方々がみんな来てくれて体験者のあいだで一気にクチコミが広がったり。皆さんに面白がっていただけるものであることは我々も確認がとれています。

――海外の市場も大きいのでしょうか。

栗栖:はい。特にフレグランスの市場は海外のほうが20~30倍も大きな市場なんですよ。

日本酒に関しては、海外だと日本酒自体を飲み慣れてない方も多いと思います。私自身シリコンバレーにあるNTTドコモベンチャーズというCVCに3年間駐在していたときに、現地の友達と日本居酒屋みたいなところで銘柄の違う日本酒を飲んでもらったのですが、その友人は『違いがわからない、どれもSAKE』と言っていて…(笑)。

今後、そういった方々にも味わいをわかりやすく伝えることができるツールになっていくのではないかと思います。

香りと言語の融合によって広がる可能性

――言語化できなかった“嗅覚の嗜好”を言葉と融合することで、さまざまな可能性が広がりますね。

栗栖:これは参考までに面白かった話なのですが、日本酒のKAORIUMには「どんな自分になりたいですか」という“気分から探す”機能があるんですけれども、月曜日によくあがってくる言葉が「解放されたい」という言葉なんです。

では「リラックスしたい」「自分にご褒美」といった言葉が上がってくるのはいつかというと、なんとなく金曜日だと思いませんか?これ、じつは水曜日だったんです。人間って1週間もたないんじゃん…ってちょっと思ったりもしましたね。(笑)

こういう、消費者が何を思っているかとかどういう感情でいるのかみたいなところを、定量的に取れるという側面もKAORIUMの面白いところだと思っています。

※敬称略

<インタビュイープロフィール>
栗栖 俊治

慶應義塾大学大学院修了。2005年株式会社NTTドコモ入社。以後10年間にわたり携帯電話やスマートフォン向けの位置情報サービス、音声認識機能、GPS機能のプロジェクトをリード。「イマドコサーチ」「しゃべってコンシェル」は大ヒットした。2015年より米国シリコンバレーのDOCOMO Innovations, Incに出向。
AIに関わる数々のスタートアップビジネスを発掘し、NTTドコモ本社との協業や出資に成功。2018年に帰国後、SCENTMATIC株式会社を設立。AIで香りを言語化する「KAORIUM(カオリウム)」を開発。SCENTMATIC株式会社 代表取締役社長・CEO(現職)

(取材/文・Tsunoda Maiko)