“香りの選択”に関する消費者の悩みを解決したい
――栗栖さんは、なぜ香りの市場に着目されたのですか。
栗栖:私は元々コンピュータサイエンスで修士など持っているのですが、コンピュータだとかITの歴史って、最初に1940年代ぐらいにシャノンやノイマンっていう研究者が、情報を0と1で全てを表現できるという情報理論を定義して、それを半導体というものが物理的に実装できるようになってきた。
そこから高速で計算をできるようにCPUというものが生まれてきて、さらにそれを情報を記憶するっていうメモリが生まれてきて…っていう進化をたどっているんですね。
昨今は“生成AI”なんて言葉も出てきていますが、コンピューターやITの進化の歴史って、人間を模倣しようとしている、もう人間を模倣というか作ろうとしてるような、そういう切り取り方もできるんじゃないかなと私は思っています。
2000年代前半には画像認識、いわゆる視覚の機能が開発されて社会的に活用され、音声認識っていう聴覚の実装もされています。
そんななか、いままでなかなか突破できなかったのがこの“嗅覚”の領域であって、昨今、そこに対してさまざまなチャレンジが生まれています。
――嗅覚の分野において、現在どのような課題があるのでしょうか。
栗栖:我々が着目しているところの一つとしては、香りの市場が広がる一方、いち消費者として香りを選びに行ったときに「こんなに種類があると選べない」「何となく好きな3~4個は選べるけどどれかひとつを選ぶとなるとどう選んでよいかわからない」という、消費者の意思決定の課題があることです。
ワインや日本酒のような高価格帯なものにおいてもそれは起こっていて、ラベルやボトルのデザインで選んでしまうと、自分の口に合うかどうかってあまりわからないんですよね。
――実際に飲んでみないと、自分が好きな味わいかどうかはわからないということはありますね。
栗栖:はい。たとえば「純米大吟醸」という表現も、あくまで製造手法であって、味わいは表現していない。その結果、選んだものが自分の口に合わなかったとしても「仕方ないな」とされてきたのが、過去数十年において消費者が諦めてきているところなんじゃないかなと思っております。
ここに対して、我々はソリューションを提供したい。そういった想いで、香りや風味を言葉で表現できるAIシステム「KAORIUM」を開発しました。最近でいうと、“香りのChatGPT”みたいな言い方になりますかね。
これって、今までになかった消費者の体験なんです。
香りや風味をもつものを購買したり楽しんだりするシーンに、KAORIUMを実装していくことによって、お客様に喜んでいただく。ひいては売上が上がったりだとか、消費者のエンゲージメントが高まったりだとか、もしくは消費者がどういうものを求めてるかというその感性データを事業的価値として事業者様にも提供できる。そういった形で我々はBtoBtoC型の活動をしています。