“香りのChatGPT”。KAORIUMが提供する新体験とは

――「香りと言葉を融合させる」とは、具体的にどのようなことなのでしょうか。

栗栖:たとえばここに1枚の絵画があったとして、その絵画を鑑賞したときの体感って結構曖昧な感覚ではないでしょうか。情動の揺れ動きが起こって「この絵っていいなぁ」というじわっとした体感を楽しんでる方が大半かと思うんですが、じつはこの絵画に言葉を融合させた体験がありまして、それは漫画なんですよね。

漫画を読んだときの体感と先ほどの絵画を鑑賞したときの体感とは、全然違うと思うんです。漫画は、絵と言葉が融合することによって人物の表情がもつ力がぐっと変わってくる。

同じようなことが聴覚の領域においても起こっていて、たとえばクラシック音楽を鑑賞してるときも情動の揺れ動きが起こってそれを楽しんでいる体感があって、ここに言葉を融合させた体験が“歌”なんです。歌詞があるからこそ共感が増幅されますよね。

つまり「言葉」には、語感がもたらす体感を増幅する力がある。香りを感じているときって、何となく好きかそうでないか、いい匂いがそうでないかというような曖昧な感覚でとどまっているかと思うんですが、ここに言葉が融合してくることによって、新しい体験が生まれるのではないかと。

そこで我々が開発したのがこのKAORIUMというAIシステムなんです。

――どのようにAIを活用している?

栗栖:同じ香りに対しても、人それぞれ好き嫌いが違っていて、感じ方も違う。

KAORIUMでは、その一つの香りに対して人々がどう感じているのかという官能評価データをベースに、インターネットや文学にある膨大な言語表現を学習したAIに流し込むことによって、一つの香りを様々な言葉で表現できるようにしています。

さらに、たとえば「あっさり」っていう言葉を伝えるだけで「あっさりだったらこんな香りがあるよ」と香りのリストを返すことができるようになっている。

今世の中で起こっている“嗅覚×テクノロジー”の新領域は、人それぞれに合った「パーソナライズした香り」にしていく動きであり、さらに人それぞれがどう感じるかという“その人ならではの感じ方の揺らぎ”を使ってデータにしているところは弊社だけの特徴です。

売れ筋が変わる?事業者のKAORIUM活用事例

――KAORIUMは接客支援のツールという印象がありますが、その裏にあるデータにも大きな可能性がありそうですね。

栗栖:はい、そうなんです。KAORIUMはいま資生堂や生活の木などいろんなところに実装されていますが、事業者は、顧客がどの香りが好きでそれに対してどう感じたかというフィードバックのデータを、どんどん集めています。

たとえばとあるフレグランス小売店で、700人ぐらいの方がお香を使ったときのデータを集めてわかりやすくビジュアライズしたデータがあるのですが、こういったデータを分析していくと香りの嗜好グループというものが見えてくるんですね。

ちなみにこのデータでは大きく3つの嗜好グループが見えてきて、「みずみずしい・フルーティー」といった香りが好きだと言っているグループもいれば、「穏やかな」「落ち着きのある」といった香りが好きと言っているグループもいる。さらに離れたところに「やわらかな」香りが好きと言っているグループもいる…といったことが可視化されてきたんです。

このデータを分析することで、自社商品がどこのグループには価値提供できていて、どこにできていないのかといったことや、競合他社の商品と自社商品がどういうふうに感じ方が違っているのかみたいなところがわかります。

つまり新しい商品を開発するときや、商品をどう伝えるとより伝わりやすいのかみたいなところで、マーケティングに活用することができるデータとなります。


――KAORIUMは、商品販売のマーケティングツールとしても活用できるのですか。

栗栖:はい。たとえばビックカメラ有楽町店や新潟ぽんしゅ館といった酒販売店にKAORIUMが置いてあるのですが、そこでは顧客がどんなお酒を求めているのかをタップで探せるようになっています。

今までは甘口辛口の表現だったものが、KAORIUMでは「優しい甘み」「フルーティー」など求めている味わいを言語の選択肢から選べるようになっていて、顧客がタップしてるデータがどんどん集まってくるわけですね。

こういったデータを分析していくと、いま求められている味わいが見えてくる。すると、今まで甘口辛口の二元論で仕入れを検討していたところが「消費者が求める味わいは全然違うんだ!」っていうファクトが出てきたりして、事業者にとってはすごい驚きにつながることもあって。

それによって仕入れを変えていくとか、棚割りのなかで「優しい甘みのお酒」という言葉で案内すると、やっぱりそこのお酒ははけていくそうなんです。

――「本当に自分が飲みたい味」を選べることで、買う商品が変わる人もいるのでは。

栗栖:はい。新潟駅にあるぽんしゅ館でも、100種類ぐらいのお酒を利き酒できるコーナーにKAORIUMが置いてあるんですけれども、KAORIUMを置く前は特別酒や季節限定酒が半分以上のシェアを占めていたと。

それがKAORIUMを置いた瞬間に、定番酒のほうがより売れるようになったんですね。

顧客の購買意思にちゃんと関与してるところが如実に出ていて、今までラベルの銘柄名だけでは選べなかったところが選びやすくなったことによって売り上げが全然違うという報告もいただいています。